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20XX.10.XX 決着
朝、酒場のテーブルで突っ伏して寝てる所をじいちゃんんにたたき起こされた。
「ほら、出かけるぜ」
じいちゃん、結局、力に目覚めなかったよ――
「言ったろ。そんなの一日でどうなるもんじゃねえんだって。まあ、お前は美夜さんやご婦人たちと一緒に戦いを見てな」
マリスと戦うのは、じいちゃん、コメッティーノ、ゼクト、リチャードだった。水牙、ジェニー、ファランドール、ミナモ、ランドスライドは後方支援、更にぼくたち非戦闘員の警護をヌニェスとマフリ、陸天、そして美夜が務める事になった。
フェイスの旧文化地区に入り、中央にでんと控える黒っぽい古城、そこにマリスはいるはずだった。今は次の戦いの準備と《虚栄の星》の平定に追われているらしかった。さすがの残虐な男でもこの文明は残した方がいいと考えたのだろう。
城内にはすんなり入れた。ぼくらはじいちゃんを先頭に黙々と玉座の間に向かった。
小学校の体育館くらいある玉座の間の中央に一脚だけ机と椅子が置かれ、その脇に男が立っていた。
「……誰だ?」
静かな声が、がらんとした広間に響き渡った。問いかけた男は金髪で、三十をようやく越えたくらいだった。
これがマリス、『事実の世界』ではぼくも会った事があるという男なんだ。
「マリス、決着をつけに来たぜ」
じいちゃんの言葉にマリスは椅子と机を広間の隅に蹴り飛ばした。
「歯ごたえのありそうな面々だ」
「こっちも負ける訳にはいかねえんだよ。もっともただ勝つだけじゃあダメなんだが、負けたんじゃあハナから話になんねえ」
「――名を聞いておこう」
「《オアシスの星》のデズモンド・ピアナ、そして――」
じいちゃんが一人ずつ紹介していき、それが終わるとマリスは微笑んでいた。
「やはりな。銀河の上半分の主立った者がほとんど来ている。これは手間が省けた。ここで私が勝てば、銀河はほぼ我が手中――それにしてもご婦人たちも含め、全員が戦うのか?」
「いや、全員じゃねえよ。何ていうか一蓮托生ってやつでここまで一緒に来ちまっただけさ」
「面白いな。で、誰から相手すればいい。全員相手でも構わないぞ。こちらにもアイシャとデプイという手練れがいる」
「そうかい。んじゃあお言葉に甘えさせてもらうか。一対一じゃあ勝ち目はなさそうだしな」
「おい、デズモンド」とコメッティーノが言った。「おれ一人でやれるぜ」
「コメッティーノ。自分を過大評価するなよ。『事実の世界』のお前だったらそうかもしれないが、こっちの世界のお前の力は格段に落ちる。他の皆も一緒だ。ここは素直に皆で戦おうぜ」
「――訳のわからぬ事を。さあ、援軍が来る前に始めた方が良いのではないか」
「大した自信だ。じゃあ始めるか」
戦いが始まった。
最初にじいちゃんが動いた。マリスに近付き、重たそうな左右のフックを連続して放った。マリスが巧みにパンチを避けると、じいちゃんの巨体の背後からコメッティーノが飛び出してマリスに襲いかかった。
「くらえ、極指拳」
マリスはじいちゃんとの対峙の姿勢から、咄嗟に後ろに飛び退き、床をごろごろと転がった。
「ちっ、隙がないぜ」
「そちらこそ。油断はできぬ。本気でやらせてもらう」
「次は私が行こう」
リチャードがマリスの前に立った。
リチャードは装甲を身に付けず、素手のままマリスにゆっくりと接近した。
マリスが異変を感じ、身構えた瞬間、リチャードが装甲を発動させ、諸手刈りのような形でタックルした。
マリスは難なく避けたが、リチャードの鎧から発する瘴気のせいで足がもつれ、尻餅を着いた。
ゼクトが声を上げた。
「リチャード、どいていろ」
ゼクトの『真空剣』が唸りを上げてしゃがみ込んだマリスに牙を向けた。
「くっ……『爆雷』」
マリスは右手だけを前に伸ばし、ゼクトの剣技を相殺した。
マリスは何事もなかったように立ち上がった。
「今の攻撃には肝を冷やした。次は何を見せてくれる?」
じいちゃん、コメッティーノ、リチャード、少し離れた所のゼクトはマリスと距離を取りながら様子を窺った。
「来ないならばこちらの番だ。貴殿たちは時間をかけ過ぎた。とくと味わうがいい。『連鎖爆』!」