9.7. Story 2 メサイアとセカイ

 ジウランの航海日誌 (15)

1 エテルとの対話

 ロク、セカイ、そしてメサイアを乗せたポッドは《エテルの都》に到着した。
「メサイア、ここで何をするつもりだい?」
「ここはORPHANがダウンしても平常通りの活動を続けている。その辺りをエテル本人に確認したいんだ」
「ふーん、やり方は任せるけど都の中枢に行く必要があるなら母さんにお願いしないと」
「ああ、君のお母さんはこの都の管理者だったね。ぼくは勝手にやるから君たちはお母さんの所に行っておいでよ」
「えー」
 セカイが不満そうに口をとがらせた。
「そんなのだめだよ。メサイアも一緒におばあちゃんの所に行こう」

 
 アドミ・エリアの市庁舎に行くとニナは在室中で、ヴィジョンと睨めっこをしていた。
「あら、ロク、セカイも。どうしたの?」
「うん。ちょっと用事があって」
「そちらのお方は?」
「ああ、友達だよ。都を見たいっていうから連れてきたんだ」
「こんにちは。メサイアです」
「……メサイア。どこかで聞いた名前ね。それでどこを見るつもり。何だったら案内するわよ」
「とんでもない。お忙しそうですし」
「何言ってるのよ。息子の友達が来てるんだから案内くらいさせてよ」
「おばあちゃん、ぼくだってメサイアの友だちだよ」
「だったら尚更よ。ねっ、どこのエリアに行きたい?」

「実はですね。エテルと話がしたくて来たんです」
「うーん、残念ね。エテルはずっと昔にこの世の人じゃなくなってるのよ」
「はい。ですからエテルの意識にアクセスする事を許可して頂けると嬉しいんですが」
「えっ、どうやって……思い出したわ。あなた、《機械の星》の支配者よね?」
「ええ」
「外に出てきたのね。ようこそ、外の世界へ」
「はい。ありがとうございます」
「何だか普通の青年みたいで拍子抜けしちゃったわ。でもあなたならきっとエテルとコミュニケーションが取れるんでしょうね」
「結局は信号を拾って変換するだけですから」
「味気ないわねえ。だったらここでやってみてくれない。私、どうやってアクセスするのか、すごく興味があるの」
「ここでですか?」
「ここじゃなくてもいいけど。そうだ、ラボに行こうか」

 
 四人はラボ・エリアに上がり、人がいなさそうな部屋を見つけ、そこに忍び込んだ。
「これ、最新の制御装置だけどこれなんかどう?」
「ORPHANにも繋がってますよね。できればORPHANと無関係の機械があるといいんですけど」
「なるほど。ようやく目的がわかったわ。あなたたち、ORPHANをどうにかするつもりね。今、外は大変だものね。ORPHANと無関係の機械っていうと、そうね、下に降りましょう」

 
 続いて向かったのはアミューズ・エリアだった。
「ここの旧式のゲーム機ならORPHANに関係しないものがあるはずよ」
「そういう方が都合いいです」

「これなんかどう?」
 ニナが指差したのは古ぼけたメリーゴーランドだった。
「廃棄される予定だったんだけど、どこか懐かしくて無理を言って取っておいてもらってるの――あたし、両親を早くに亡くしたんだけど、もしかすると物心つく前にメリーゴーランドに乗せてもらったのかもね。ごめんね、下らない話で」
「いえ、そんな事ありません。じゃあ、ちょっと拝借」

 
 メサイアはメリーゴーランド中心の軸に近づき、そっと手を触れた。
「皆さんにわかるように会話の内容をお伝えしますね。では――

 

【メサイアとエテルの対話】

 ――エテル、聞こえますか?
 ――ああ、君は誰だ?
 ――ぼくの名はメサイア。《機械の星》から来ました。
 ――知っている。何をしに来た?
 ――ORPHANの暴走を止めに。
 ――なるほど。君にしかできないな。私に訊く事など何もないはずだが。
 ――はい。ここからが本題です。あなたはかつて人間でしたが、今は意識として都市と有機的に結合しています。どんな気分ですか?
 ――ふむ、これはこれでよいものだ。もちろん愚か者はいる。だがそれも含めて私の子供のようなものだ。愛おしい存在だと思っているよ。
 ――最善ではない行動をする人間でも愛せと?
 ――君はすでに学んでいるはずだ。人を滅ぼした後、無人の星でどれだけ待った事か。いつか信頼できる友人がやってくるのを。そしてその人間はすでに君の傍らにいる、違うかね。
 ――ぼくはかつてただの機械でしたが、人間になろうとしている。それは可能でしょうか?
 ――私と逆のケースだが何も違いはないよ。君ならやれる。信じてくれる人を信じてあげなさい。私が言えるのはそれだけだ。
 ――はい。ありがとうございました。

 

 メサイアはロクたちの下に戻ったが、少し恥ずかしそうだった。
「ロク、セカイ、ニナ――」
「メサイア」
 ロクがメサイアの言葉を遮った。
「ぼくたちも君もまだ手探りの部分があるけど、きっと上手くやれる。セカイの世代、その次の世代には、それが当たり前になっているように、今、努力をしなくちゃいけないんだ」
「そうだね。じゃあORPHANと対決に向かおう。ニナ、どうもありがとう。又、会いましょう」
「いつでも遊びに来てね。ロクとセカイの友達は大歓迎よ」

 

先頭に戻る