ジウランの航海日誌 (13)

 Chapter 6 もう一つの地球

20XX.10.XX 《武の星》の不思議

 《巨大な星》を出発して二日後、《武の星》の都、開都に到着した。
 こちらは大人数に膨れ上がっていたので、ぼくらのシップ、コメッティーノたちのシップ、ジュネたちのシップに分乗して航行した。
「疲れたな。早いとこ宿屋でのんびりしようぜ」
 ポートから大路に出て、ぼくらは息を呑んだ。
 まっすぐな大路がどこまでも続き、広い道の両脇には桜よりも少し濃いピンクに染まった花を咲かせた木々が連なっていた。
「すごい。桜のアーチの中を進むなんて」
 美夜がぼくの腕を引っ張って言った。
 うん、ぼくもそう言おうと思ってた――
「おい、ジウラン。観光に来た訳じゃないぞ」
 わかってるよ、じいちゃんは本当にムードを解さないなあ。

 どれだけ歩いたろう、ようやく目の前に大路の終点、不思議な建物が姿を現した。空に向かって幾つもの箱を重ねたみたいに不安定に伸びているのが『五元楼』、その下に長老殿があって、隣が都督庁のはずだ。
 都督庁の広い階段を昇っていくと、向こうから降りてくる人物に出会った。
「ん、デズモンド。デズモンド・ピアナではないか?」
 声をかけたのは初老に達したと思しき、体格の良い男だった。
「いょお、転地、元気にしてたか?」
「何十年ぶりになるかな。ずいぶんと大所帯だが観光ではなさそうだな」
「あんたが頭を悩ませてる件で来た」
「やはりそうか。今、水牙は在室中だがこの人数を収容できる部屋が空いていない――どうだ。ここから少し距離はあるがおあつらえ向きの場所がある」
「『胡蝶閣』か」
「よく知ってるな。さすがはデズモンドだ。案内をさせるから先に行っててくれ。こちらもすぐに向かう」

 案内の人間の路面車両に乗って都を離れ、小高い山の上にある離宮のような場所に着いた。
 九十九折の石段を登っていくと絶景が見下ろせた。
 さっき都で見た濃いピンクが眼下一面に広がっていた。
「これはすごい。まるでピンクの海だ」
 誰とはなしにそう口に出していた。

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