ジウランの航海日誌 (11)

 Chapter 4 認められぬ者たち

20XX.9.XX 集結

 再びダーランに引き返す事になった。
 本当は大都会ヌエヴァポルトに行ってみたかったけど仕方ない。
 まだ実感の湧かない「非常時」という言葉、しかも案外切羽詰まってるみたいだった。
 マリスはもう近くまで来てるんだろうか。

 それにしても隠れ里を出て、敢えてアンフィテアトルの脇の人通りのあまりない道を大急ぎで西に向かう一行の様子は異様だった。
 問題の封印された箱、これは二本の丸太に縄でくくり付け、江戸時代の駕籠かきの要領で運んだ。疲れると途中で交替をしながら進んだが、こちらは人手が十分だった。
 翼の生えた王に海の女王、虎の夫婦、僧形に二メートル近いじいちゃんとぼくが徒歩組で、それに葵姫が里から持ち出した牛車のような車に美夜と葵が乗り込んでいた。
 百鬼夜行、知らない人が見たらそう思っただろう。

 
 明け方に里を出て、昼過ぎにダーランの北の町はずれまでやってきた。
「デズモンド」
 車の中の葵が声をかけた。
「で、どこに向かうのじゃ。この先は大きな街、この箱を持ったまま進むのは危険じゃぞ」
「そうだな。だったらここから東に進んだネコンロ山の麓で待っててくれよ」
「ん、何を言っておる。どこぞの安全な場所に納めに行くのではないのか?」
「誰もそんな事言ってねえよ。まあ、待ってろよ。ちょっくら行って戻ってくっから――ああ、そうだ。葵の友達も来てんじゃねえかな」
「昨夜、お主が申したジュネやらアダンやらか。まことであれば嬉しいが」
「この非常事態だ。皆、何かを感じ取って集まる。間違いねえよ」

 
 結局、じいちゃんはぼくを連れてダーランの街に舞い戻った。
 街の中央広場の噴水の脇に腰かけてじいちゃんが言った。
「さてと、どっちに行ったもんだか」
 えっ、もしかしてノープランなの、とぼくが責めるように言うとじいちゃんは笑った。
「今更、何を言い出すんだよ。ここまででよぉくわかってんだろ」
 あきれて何も返せないでいると、じいちゃんが突然に叫んだ。
「ほーら、向こうからおいでなすったぜ。まずは二人」
 じいちゃんの指差す方向には移民局の方から放射状に伸びた道を歩いてやってくる二人の女性の姿があった。

「よぉ、ジュネ、アダン」
「あら、お出迎え?」
「まあな。ここにいりゃあ誰か通りかかると思っててよ。あんたらが最初だよ」
「ずいぶんと呑気ね」
 ジュネが言った。
「あなたの言った通り、アダンに会いに《オアシスの星》に行ったの。で、意気投合しちゃって。これから葵の所に行くつもりなんだけど、一緒にどう?」
「葵ならもう近くまで来てるぜ。後で一緒に行こうや」
「まだ誰か待ってるの?」
「ほら、あいつらだ」
 今度は北の放射状に伸びた道をやってくる二人連れの女性だった。

「よっ、ジェニー、ニナ」
「デズモンドじゃない。東に行くって言ってなかった?」
「もう用は終わったんだ。いよいよ旅立つからこっちに戻ってきたんだよ。あんたらもそうだろ?」
「うん」
 ジェニーが少し恥ずかしそうに答えた。
「だって『事実の世界』の旦那に会っておきたいじゃない」
「殊勝なこった――おい、ニナ。こっちの二人が話してたジュネとアダンだ」
 ニナの表情がぱっと明るくなり、ジュネたちとおしゃべりを始めた。
「で、いつ出発すんのよ?」
 ジェニーが尋ねた。
「こねえ所を見ると、奴ら、もう着いてどっかにしけ込んでやがんな――なあ、ジェニー。この辺で野郎三名が立ち寄りそうな場所ってどこだ?」
「何よ、唐突に。やっぱりお腹が空いてんじゃないの?」
「それだ。きっとあそこだ――さあ、皆、ご歓談中すまねえが移動するぜ」

 
 じいちゃんは妙齢の女性たちを引き連れて広場を南に抜けると、下町のような賑やかな雰囲気の道の左右に立ち並ぶ一軒の店の前で立ち止まった。
「ここだ」
 じいちゃんはレストランらしきその店のドアを勢いよく開けて中に入っていった。
「呑気に飯食ってんじゃねえぞ」
 店内に三人の客らしき男がいて、そのうちのもしゃもしゃ頭の一人がじいちゃんに手を振って寄越した。
「よぉ、デズモンド」
「しかし驚いたな。本当に出会えるとは」
 もう一人の短髪の男が続けた。
「待ち合わせ場所も時間も決めてなかったから、ちょっとやばいかなと思ってたけどな」
「適当な者同士の場合、こういった奇跡が起こる訳か」
 じいちゃんは二人の会話を無視して、もう一人、食べやすいように短く切った麺を黙々と口に運ぶ上品そうな男を見て微笑んだ。

「リチャード。よく来てくれたな」
 男は静かに口をナプキンで拭うとじいちゃんに向き直った。
「私の意志ではない。この男たちに無理矢理連れてこられたのだ」
 これを聞いたコメッティーノが片方の眉を吊り上げた。
「何、言ってんだ。興味津々で付いてきたんじゃねえか」
「まあまあ」
 珍しくじいちゃんが仲裁に入った。
「ありがとな。コメッティーノ、ゼクト。リチャードを連れてきてくれて手間が省けた――じゃあ、行くか」
「行くってどこへだよ」
「人を待たせてんだ」

 

登場人物:ジウランの航海日誌

 

 
Name

Family Name
解説
Description
ジュネパラディス《花の星》の女王
ゼクトファンデザンデ《商人の星》の商船団のボディーガード
コメッティーノ盗賊
ハルナータ《賢者の星》の最後の王
アダンマノア《オアシスの星》の指導者
エカテリンマノアアダンの母
リチャードセンテニア《鉄の星》の王
ニナフォルスト《巨大な星》の舞台女優
ジェニーアルバラード《巨大な星》の舞台女優
《巨大な星》、『隠れ里』の当主
陸天《念の星》の修行僧
ファランドール《獣の星》の王
ミナモ《獣の星》の女王
ヌニェス《獣の星》の王
マフリセンテニアヌニェスの妻
公孫転地《武の星》の指導者
公孫水牙転地の子
ミミィ《武の星》の客分
王先生《武の星》の客分
ランドスライド《精霊のコロニー》の指導者
カザハナ精霊
アイシャマリスのパートナー
デプイマリスのパートナー
マリス覇王を目指す者
マルマリスの父
ツワコマリスの母

 

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