9.2. Story 1 再会

 Story 2 約束

1 失踪は計画通りだったのか?

 ――ほんとに、いやんなっちゃう。でさあ――あ、誰か来る。ミチ、またね」
 ムータンは宮城の中に設置された固定式のヴィジョンを切って周囲を見回した。
 父コウと母順天がやってくるのはわかったが、それ以外にも誰かいた。

 
「ムータン、探したぜ。何やってんだ」
 コウは固定ヴィジョンをちらっと見てからムータンに話しかけた。
「別に。ミチと話してただけ」
「又、私用で固定ヴィジョン使いやがったか。これはヴィジョンを持ってない奴らのためのもんだって何度言えばわかるんだ」
「だって退屈だったんだもん」
 ムータンはそう言って、母の隣でにこにこ笑う人物をまじまじと見た。母と同じように微笑むその男性は初対面だったが、どこかで会ったような気がした。年齢は父と同じくらいか、もっと年を取っているようにも若いようにも見えた。
「父さん、この人……」

「ムータンは初めてね」
 コウに代わって順天が答えた。
「この方はあなたのおじい様、リンよ」
「えーっ、おじいちゃんなの。でも龍の顔してない」
「それは私の父のウルトマよ。この人はコウのお父様」

「ムータン文月です。おじいちゃんはどこに住んでるの?」
「初めまして、リンだよ。おじいちゃんはね、龍のおじいちゃんと同じ場所にいるんだよ」
「ムータン、今から大切な話がある」とコウが言った。「お前もそれを聞かなきゃならねえ。言ってる意味はわかるな?」
「うん、任せて」

 
 宮城の中の会議室でリンが話し始めた。
「コウと順天は知ってると思うけど、僕は今、かつて創造主がいた『上の世界』にいる。そこには順天のお父さんのウルトマを始め、精霊の祖アウロ、空のモンリュトル、水のニワワ、地のヒル、持たざるマー、そしてマザーもいて、つまり僕たち八名で銀河を見守っている。ここまではいい?」
 ムータンはリンに正面から見つめられ、どぎまぎしながら頷いた。

「――じゃあ今までの創造主はどこに行ったのか。実は僕が追い出したんだ。でも最近になって彼ら十二名のうち九名、エニク、バノコ、ギーギ、グモ、オシュガンナシュ、ウムナイ、ウムノイ、ジュカ、ワンデライと居場所を賭けて勝負をしなくちゃならなくなった」

 
「なあ、ダディ」とコウが口を開いた。「何で九人しかいないんだ。この世界を消滅寸前にまで追い込んだアーナトスリはマリスが消したっていうから、十一人いねえとおかしくないか?」
「レアは元々象徴的な存在で、『ニームの盟約』って呼ばれる『さらに上の世界』と、彼らが創り出した『上の世界』の間の取り決めそのものだって人もいる。僕がこの銀河に作りたいものと同じ」
「ふーん、難しいな。後一人は?」
「チエラドンナか――こちらはのっぴきならない事情かな」

 
「んだよ、そりゃ。で、その九人とダディたち八人で銀河を賭けてドンパチやろうってのかい?」
「まさか。そんな事したら一瞬で銀河に住む人は死滅する。直接やり合う事はないよ」
「勝負って言ったじゃねえか」
「こういう方法さ。向こうの創造主の用意したそれぞれの舞台で僕が選んだプレイヤーが戦う――」

「チェスみたいなもんか。それで勝ちゃいいんだな」
「ところがそう単純でもない。ただ勝つだけなら強い人間を選ぶだけでいいけど、彼らを納得させないといけない。だから人選がすごく大事だ」
「へえ、面白そうだ。ここまでの勝敗は?」
「今回が初めて」
「何だよ、そりゃあ。じゃあ勝利の基準も何もわからねえじゃねえか」
「そうだよ。だからとりあえずここに来た」

「……つまりは龍が関係してるって訳か」
「勘がいいね。最初の相手ウムノイは龍の王国を復活させた。コウ、順天、それにムータン、君たちにはそこに行ってもらいたい」
「ちょっと待てよ。義父さんはどうしたんだよ」
「ウルトマには別の大事な使命があって、そっちに行ってもらってる。『現地で会おう』ってさ」

「現地?」
「王国は銀河の中心、バルジの中にある」
「やれやれ、断れねえよな。順天、諸々の準備頼むぜ」
「大丈夫ですわ。留守の番は将軍たち、沙虎や山猪もいますし」
「ムータン、お前はどうだ?」
「父さんと約束したでしょ。次の戦いが終われば棒を譲ってくれるって。あたし、行くわ」
「ダディ、そういう訳だ。おれたちはすぐにでも出発できる……だけど主役はあいつだろ?」
「うん、あんまり気乗りしないけど、これから行ってくるよ」

 
 順天がムータンを連れて部屋を出て、広い会議室にはリンとコウだけが残った。
「なあ、ダディ。一つだけ教えちゃくれないか」
「ん、いいよ」

「おれが順天に出会って竜王棒を手にした事、チャパに飛ばされた事。全部、計画通りかい?」
「『天』の戦士である君にはどうしても『上の世界』の存在を知ってもらいたかった。でもあんな形で実現するとは予想してなかった」
「事前に言っといてくれよ。順天の義父さんの棒があったからいいようなもんだが、あれがなきゃ今頃は宇宙空間でお陀仏だぜ」

「少なくとも三人の人間が君の身を案じて忠告をしたはずだよ」
「……三人?おれが言われたのは順天、それから……バスキア、確かその二人だけだぞ」
「バスキアか。凄い人間だよね。いつか会うチャンスがあるかなあ」
「話を逸らすなよ」

「ごめん、ごめん。本当に覚えてないのかい。ここからずっと西に行った山の上のかつての王宮で君に話しかけた声を」
「そういゃあ、そんな事があった。あれは誰の声だったんだ?」
「僕たちのご先祖はあそこで暮らすお后の侍女だった」
「……ローチェか」
「そうさ」
「今度、ちゃんとお参りしねえとな」
「そうだね」

 

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