目次
1 新秩序
レネ・ピアソンは緊張していた。
上手く声が出るだろうか、いつもの販売促進のイベントとは訳が違う。銀河全体に向けて新たな秩序を提案するという、普通に生きたのでは経験のできない機会に立ち会うだけでなく、その進行役を仰せ付かったのだ。
斜め右手後方に待機するマリスと目が合った。当事者は落ち着いている風だった。年長の自分が落ち着かないでどうする、レネはそう言い聞かせてヴィジョンに正対した。
「――それではこれより、新・帝国設立の儀、執り行わせて頂きます。初めに新・帝国の代表、マリス文月より新・帝国設立宣言がございます」
レネに促され、マリスが一段高い舞台中央に立った。
「私が新・帝国の代表、マリス文月です。前置きはさておき、この銀河の新秩序とも言える新たな体制について発表させて頂きます」
マリスは話を切って、一呼吸置いた
【マリスの新秩序宣言】
現在の連邦による銀河の運営は順調に見えるが、その実、様々な不公平と不平等をもたらしている。 銀河の平和な繁栄と言いながら、それが『持たざる者』に限定されている事。これはデルギウスの時代から変わっていない。 更にその気になれば連邦の力により、ある特定個人だけに利益を生み出す事が可能な事。幸いな事に代々の議長が清廉な人柄であったため、この事実は顕在化していない。 こうした不平等を解消する事が新・帝国設立の目的の一つである。 新・帝国は連邦による星間の緩やかな連携ではなく、もっと踏み込んだ関係構築の上に成り立つ。 帝国における大帝がそうであったように、新・帝国では私が唯一の覇王としてその頂点に位置する。 現在、この新・帝国の考えに賛同の意を表明し、正式に加盟を申し出た星は以下の通りであり、これを正式な新・帝国の版図とする。 ・虚栄の星 ・流浪の星 ・狩人の星 新・帝国に正式加盟はしないが、その考えに賛同の意を示し、協力関係にある事を確認した星は以下の通りとなっている。 ・茜の星 ・海の星 ・灼熱の星 ・地底の星 ・鉱山の星 ・歌の星 ・青の星 ・ネオ・アース ・花の星 ・再生の星 ・ブリキの星 ・囁きの星 ・霧の星 ・密林の星 新・帝国とは敵対関係になく、互いの中立を尊重し合う事を確認した星は以下の通りである。 ・武の星 ・将の星 ・エテルの都 ・火山の星 ・神秘の星 ・獣の星 ・念の星 ・魔王の星 新・帝国との自由な経済活動の継続を確認した星は以下の通りである。 ・巨大な星 ・鉄の星 ・銀の星 ・魅惑の星 ・幻惑の星 ・誘惑の星 ・蠱惑の星 ・オアシスの星 以下の星については未だ態度が明らかでなく、その関係が明白でない。敵対的と言っても差し支えないかもしれない。 ・七聖の座 ・商人の星 ・享楽の星 ・起源の星 ・古城の星 ・泡沫の星 ・鳥の星 ・守りの星 おそらく殆どの方は新・帝国は連邦と敵対する存在なのではないかと危惧されていると思うが、新・帝国は決して連邦を否定するものではない。 共存できる可能性が1%でも残っているうちは、実力行使に出るような行為は絶対に慎む事を誓う。 最後になるが、新・帝国が目指すものは『自由』である。最近の連邦に見られる徹底した『秩序』の追究とはかけ離れた地点を目指す事から、両者が歩み寄るのは困難かもしれない。 だが本当に『秩序』の対極にあるのは『自由』ではなく『混沌』である。 我々は『秩序』と『混沌』の間に立ち、最大限の『自由』を目指さないとならないのだ。
マリスは演説を終え、振り返った。
左手後方ではラロ・ドゥファリン、ハイラーム・ビズバーグ、ビジャイ・レムリトラジ、体調不良のズベンダ・ジィゴビッチを除いたグリード・リーグの面々が拍手をしていた。
右手にはマリスの盟友、アイシャ、デプイ、それにナカツ、ムナカタ、ツクヨミが控え、こちらも拍手をしていた。
マリスは満足げに微笑み、司会のレネに小さくウインクをした。