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20XX.10.XX 凡庸な王
《オアシスの星》への里帰りを終えたぼくたちは次の目的地、《鉄の星》に向かった。
暗闇の中にいきなり、ガスの帯でつながった連星が見えた時には思わず声が出そうになった。
「確か、大きい方が《鉄の星》だ」
ポートからの指示に従ってシップを着陸させた。近頃では操縦にも大分慣れ、じいちゃんはぼくや美夜の操縦に一切口を出さなくなっていた。
地中から照らされる淡い光の中、王都プラに向かう動く歩道に乗りながら美夜がじいちゃんに尋ねた。
「おじい様。いきなりの訪問で王宮に入れるんですか?」
「ん、わからねえな。事実の世界ではリチャードの父親のトーグルはわしのパトロンだったが、こっちの世界ではどうなってんだかな」
「『クロニクル』は出版されたんでしょう?」
「この間のジュネの対応を見た限りじゃ、どうも銀河全体には知れ渡っちゃいないようだ。ポータバインドもないから仕方がないけどな」
「じゃあ、どうすれば?」
「ただな、わしが冒険をしたのは確かなんだと思う。《歌の星》の奴らはわしを覚えていた訳だしな。冒険の途中で知り合った奴らがわしを知っているとすると、冒険の始まりに出会ったトーグルは当然知っている」
「でもトーグル王はいらっしゃらないんじゃ?」
「多分代変わりしてリチャードが王だ――まあ、どうにかなるさ」
話をしているうちに動く歩道は王宮前の広場にぶつかった。目の前には雲をつくような巨大な門が建っていた。
「『プラの大門』だ。こっちの世界でもデルギウスはこの門を開けたんだろう。だがノカーノに会わなかったから、銀河連邦は作られず、『銀河の叡智』も発現しなかった。この星限定の名君だったんだろう」
「……でもノカーノは地球に行った?」
美夜がぼくの背中の『鎮山の剣』を見て言った。
「そうなるな。この世界が変わっちまったのがわかった時に、すぐに向かった場所が二つあるんだ。一つは始宙摩寺だったがこれはすぐに見つかった。もう一つは遠野だったが、これがどうしても見つからなかった。ヌエもそこにいたんだろうが、山ごとどこかに消えてた」
「ノカーノが何故、地球に行って『鎮山の剣』を持ち帰ったのかわからない?」
「ああ。手を尽くしたがわからなかった」
「うーん、大丈夫かしら?」
美夜は残念そうに言った。
「なるようにしかならんよ。さあ、王宮に向かおうぜ」
王宮前で動く歩道を降りた。王宮内部は一部開放されているみたいで、多くの観光客がつめかけていた。
突然にぼくらの名前を呼ぶ声がした。声の方を振り向くとコメッティーノとゼクトが手を振っていた。
「早いな」
じいちゃんが言うとコメッティーノが近寄ってきた。
「当たり前だ。こんな楽しいイベントはねえって言ったろ――さ、早いとこ王宮に行こうぜ」
じいちゃんは受付の女性に向かって口を開いた。
「わしは先代のトーグル王と知り合いのデズモンド・ピアナってもんだが、偉い人に伝えてくれないかい?」
じいちゃんはぼくたちの方を向いて舌を出した。ここはそうするしか方法はないな、大分じいちゃんのやり方に感化されている自分に気付いて苦笑いした。
しばらくすると偉そうな老人がやってきた。
「あなた方ですかな。先王とご懇意にされていらっしゃった方は。失礼ですがもう一度お名前を頂けますか?」
「デズモンド・ピアナだ」
「おお、あの冒険家の。あなたの記された『クロニクル』は先王が事あるごとに称賛されておりました。『これからはこういう銀河全体を見渡せる人材が必要なのだ』と――ささ、どうぞ中にお入り下さい」
老人に案内されて一般人は立入禁止の王宮の中に入っていった。
「どうやらセーフでしたね」
美夜が小さな声で言うとじいちゃんは「まあな」と少し得意げな顔をした。
立派な王宮の広間に通され、老人が口を開いた。
「先王はお亡くなりになりましたが、リチャード王にお会いになって頂けますか。きっとお喜びになられます」
老人は去って、しばらくすると別の中年の男がやってきた。
「王がお会いになられるとの事です。どうぞ、こちらへ」
《花の星》のジュネ女王と会った時に比べて、堅苦しい雰囲気がした。でもこっちが本来の王室の姿なんだろう。