8.6. Story 2 頂上会談

 Chapter 7 秩序と自由

1 心理効果

 その日がやってきた。
 ラロは六つの丘の中心、フェイスの丘の『旧文化地区』のドミナフ城を会見場に指定した。
 古びた城の大広間のこの日のためだけに設置された大きなテーブルにレネが座り、その脇にスピンドル、ナカツ、ムナカタ、ツクヨミが並んだ。
 グリード・リーグの面々は二階のテラスに腰を掛け、この様子を見下ろした。

 
 最初に城を訪れたのは連邦の制服姿のロアリングだった。
「連邦将軍ロアリングと申す」
「遠路はるばるお越し頂き、お疲れ様です。お一人で来られるとは。学習効果があったようですね」
 レネの嫌味を込めた挨拶にロアリングは顔をしかめた。
「よもや石をお持ちでないなどという事はないですよね?」
「当たり前だ。疑うのであれば、そちらこそ最初に石を見せるべきだ」
「これは失礼」

 レネの合図により、スピンドルは『戦乱の石』、『隠遁の石』、『天空の石』をテーブルの上に置き、ナカツも『黄龍の石』を静かに置いた。
「ふむ、たったの四つか。ではこちらも」
 ロアリングは背嚢から石を取り出した。
「『老樹の石』、『禍福の石』、『火焔の石』。以上だ」
「互いに苦労した割には半分にも満たないとは。お笑い種ですな」
「まったくだ。これで最終決戦もないものだ」
「まあ、お待ち下さい。他の石を持つ方々も間もなく来られるはずです」

 レネは心の中でほくそ笑んだ。ビジャイと検討を重ね、招待客の到着時間が微妙にずれるよう調整をしたのだった。それにより心理効果がもたらされれば、交渉を有利に進められるという計算だった。
「ほら、次のお客様です」

 
 登場したのはマリスとアイシャだった。
「文月マリス、アイシャ・ローンです」
 マリスの名を聞いたロアリングの表情が険しくなった。
 レネは初めて会うマリスに興味津々だった。

「さて、マリス。君の持つ石をここに出してくれないか」
 マリスは快く頷き、アイシャと共に石をテーブルの上に並べた。
「『血涙の石』、『純潔の石』、『夜闇の石』、『貴人の石』。全部で四個です」
 レネもロアリングも一瞬息を呑んだ。
「……これは凄いね。たった二人でここまで集めたのかい?」
「いえ、どちらかと言えば皆さんが石をくれました」
「ほぉ、人望だね――ああ、初めに礼を言うべきだった。ここにいるスピンドルもナカツたちも君には助けられたようだ。ありがとう」
 マリスは恥ずかしそうに軽く頭を下げ、ロアリングはその様子を仏頂面で見ていた。

 
「これでもまだ十一個だぞ」
 ロアリングが声を上げた。
「残りの六個の石の持ち主も続々登場されますよ」
「……六個、七個の間違いだろう」
「いや、この場で十七個の石を手にした者が勝者で、その者に最後の石が与えられるのです」
「――そんなルールは聞いていないぞ」
「私たちもつい先日知りました」
「隠し事をしているな。どこがフェアプレー精神だ」
「おや、《泡沫の星》でだまし討ちを仕掛けた挙句、無様な姿を晒したあなたのお言葉とも思えない」
「貴様、愚弄する気か」

「待って下さい」
 マリスがたまらず割って入った。
「まずは全ての登場人物が揃うのを待ちましょうよ。まだ会った事のない人もいるし、楽しみにしてるんです」
「ほぉ、マリスは若いのに落ち着いている」
 レネに言われ、ロアリングは悔しそうに下を向いた。
「それにレネさんはわざと時間をずらしているみたいです。きっと心理効果を狙ってるんじゃないですか?」
 今度はレネが赤くなって俯いた。

 

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