8.5. Story 3 連邦参戦

 Story 4 虎の尾を踏む

1 ロアリングの発見

 連邦軍将軍ロアリングは配下の将を集めた。
「レネ・ピアソンの連中の動きはどうなっている?」
「はっ、三方に分かれて進んでいます。我々が観察した《火山の星》を回る四隻とは別に、《武の星》方面で三隻、《エテルの都》付近で数隻確認されています」
「目的もなしに航行している訳でもない。どうやって行先を決めているのだ?」
「それがわかりません」
「ふむ」
 ロアリングは首を横に何度も振った。
「きっと何かあるに違いない。当面は《火山の星》を回ったシップの追跡を続けろ」

 しばらく経ってロアリングに連絡が入った。
「奴ら、《化石の星》に停泊するようです」
「となると、そこに石があるのか」
「正確な事はわかりませんが、石を回収する可能性は高いと思われます」
「――仕掛けるか。いいか。今から作戦を伝える」

 
 《化石の星》に接近したウイラード一行はヴィジョンで他のシップと連絡を取った。空間にはナカツとスピンドルの姿が映っていた。
「調子はどうだ。こっちはこれから《化石の星》で二個目の石、あんたのと合わせりゃ三個目の回収に移るぜ」
 ウイラードが言い、スピンドルが後を続けた。
「こちらは特に動きはない」
「何だよ。回収できてないのかよ」
「最後まで聞いてくれ。石を持つ人間を三名特定できた」
「それで?」
「この石集めにあたって初めにレネが言ったろう。これはフェアプレーの精神に則ったスポーツだ。すでに石を持つ者から強引に奪い取る事はできない」
「……まあ、そうだなあ。早い者勝ちって訳か。ナカツはどうだ?」
「こちらも一緒だ。石を持つ人間を三名見つけ出した」

「ふーん……って事はナカツが三個、スピンドルは持ってるのも合わせて四個、おれたちは二個目の石を回収しに行く。もうそれだけで九個じゃねえかよ」
「そういう事になるな」
「残りの九個を集めちまうか、石の持ち主を明らかにしちまえば、この下らないゲームは終わりだ」
「そう簡単にいくとは思えんが」
「心配しなさんなって。おれたちには《智の星団》冒険っていう最大のイベントが待ってんだ。こんなのもんはとっとと終わらせるさ」
「わかった。又、皆で連絡を取ろう」

 
 ヴィジョンを切ったナカツはツクヨミに話しかけた。
「ツクヨミ、今のは?」
「……ウイラードは表裏のない、冒険バカ。彼の言葉は真実だわ。でもスピンドルは違った。何か隠し事をしている」
「こちらと同じように秘かに石を回収したとか?」
「ううん、それとは違うみたい。もっと、こう、ドロドロした感じ」
「なるほど。ここから先は犠牲者が出るかもしれないな」

 
 同じようにヴィジョンを切ったウイラードは意気揚々とメンバーに声をかけた。
「よーし、石を回収してどんどん先に進もうぜ」
 しばらく進み、星の上空でウイラードは再び口を開いた。
「何だ、この星は?」

 
 《化石の星》、それは本来生命の進化の過程にある星だった。大型爬虫類が環境に適応しきれずに滅び、その次の生物の登場を待っていた所に、他の星から人間たちが入植し始めた。支配者として現れるはずだったその星固有の生命が生まれる事はなくなり、結果として残されたのはおびただしい数の大型爬虫類の骨だけだった。
 今、ウイラードの眼下に広がっているのは、まるで雪山のように至る所に白い骨を露出させた大地だった。

 
「おれたちの出番はなさそうだな――よし、ここはベドブルに任せておれたちはその次の目的地、《神秘の星》に向かうぞ。すぐに戻ってくるからしっかりな」
 そう言うとウイラードたちは一隻のシップだけを残して去っていった。

 
 残された一隻、「穴掘りベドブル」のシップは地上に降りて石探しを開始した。
「よし、ウイラードたちが戻るまでに見つけるぞ。おいらの長年の経験によればあっちの山が怪しいな。行くぜ」
 ベドブル一行が星で一番高い山の中腹で黙々と巨大な骨を除け、石探しをしていると、上空にシップが現れた。

「ありゃ、もう帰ってきた」
 ベドブルの手下の一人が言った。
「ん、本当か」
 ベドブルは空を見上げた。
「いや、違う。第一あんなに数が多くない」
 上空にはいつの間にか十隻近くのシップが待機していた。
「連邦軍ですかね?」
「面倒な事にならなきゃいいが」

 
 ベドブルたちが作業の手を休め、空を見上げていると、シップは下降を開始した。
「どうやら連邦のマークは付けちゃいないな」
「じゃあ民間機ですか?」
「……まさかとは思うが」
 十数隻のシップが着陸するかと思われた時、上空には別のシップの集団が姿を現した。今度のシップは遠目からも鮮やかに連邦の七つ星のマークを機体に付けているのがわかった。
 後から来た連邦のシップに気付いた先客は着陸寸前だったにもかかわらず、急上昇すると慌てて去っていった。
 七、八隻の連邦のシップが正体不明の十数隻を追いかけ、両者の姿は大気圏外に消え、残った四、五隻の連邦シップがベドブルたちの近くにゆっくりと降りてきた。

 着陸したシップから出てきた連邦軍の中年の将兵にベドブルは尋ねた。
「今のは何だい?」
「お恥ずかしい話ですが、最近、隣の《森の星》を根城にした海賊が跋扈してましてな」
「えっ、海賊だったんですか?」
「そうです。この一帯は警戒区域に指定されていて、航行は構いませんが、不要な滞在は禁止すると警告を出したのですが、気付きませんでしたか?」
「え、ええ」
「ここで何をされているかは知りませんが」
 将兵はちらっとベドブルの背後の山を見上げた。
「至急、退去して下さい。これはあなた方の安全のためです。よろしいですな」
「そんな危険を冒してまでいようとは思いません」
「賢明です。安全な場所まで我々が案内いたしましょう」
 ベドブルはシップに乗り込み、連邦に警護されて飛び立った。

 
 ベドブルが立ち去るとすぐに、先ほど正体不明のシップを追いかけた連邦シップと当の正体不明のシップが再び上空に姿を現し、着陸した。
 シップからばらばらと人が降り、正体不明のシップを率いていたロアリングが大声を出した。
「急げ。奴らが戻ってくる前に石を見つけろ」

 
 連邦シップに安全な場所まで警護されたベドブルはウイラードに連絡を入れた。
「……そうか。命には替えられないからな。賢明な判断だ」
「よかったよ。連邦がすぐに来てくれて助かった」
「何、連邦はすぐに現れたのか?」
「ああ、海賊が見えてから五分後くらいだったかな」
「どうも臭うな。《神秘の星》はファサーデに任せてそっちに戻る。《鉄の星》で落ち合う。いいな」
「《神秘の星》でも何かあるんじゃないか?」
「ファサーデのスピードには誰も付いてこれねえ。相手もそこまでは手が回らねえだろう。安心しろ」

 
 ロアリングは上機嫌で将兵たち、そしてトゥーサンにヴィジョンを入れた。
「見つけたぞ。これが創造主レアの力、『老樹の石』だ」
 ロアリングは茶色い石を上にかざした。
「何故、私がこの石の名を知っているか。それはこの石が私にそう語りかけたからだ。そしてこの石は次に向かう場所も伝えてくれた。石同士は互いに引き合うのだ」

 トゥーサンが声を上げた。
「なるほど。それに従って《虚栄の星》の奴らは航行している訳だな」
「そのようです。ですが、からくりがわかった以上はこちらが有利です」
「よし、こうなれば正式に連邦の名の下に通告を出そう。『領内で石を持つ者は速やかに供出するように』とな。一気に全ての石を集めてしまえ」
「あちらの連中はすでに幾つか石を回収しておりますので、全てという訳には」
「ロアリング。連邦秩序を維持するためには多少の犠牲はつきものだ――次の目的地はどこだと言っている?」
「……はい。二つあります。一つは《誘惑の星》、もう一つが《泡沫の星》です」
「よし。《泡沫の星》だ。そこで一気に形勢を逆転させる。奴らを弱体化させるのだ」
「しかし相手は一般人です」
「ふふふ、お前は軍務一筋だからわからんだろうが、あいつらの背後にはグリード・リーグなどという連邦秩序を快く思わん連中が付いているのだ。いずれは思い知らせねばならん相手だ」
「わかりました」

 
 ウイラードたちが《鉄の星》に到着してから、ほどなくファサーデが戻った。
「ファサーデ、首尾はどうだった?」
「砂漠で物を探すほど大変な事はないやね。だが見つけたよ――創造主アウロの力、『禍福の石』だ」
 ファサーデは白と黒に怪しく輝く石をウイラードに渡そうとしたが、ウイラードは首を横に振った。
「お前が持っとけ。この間、手に入れた『火焔の石』もお前が持ってろ」
 ファサーデは不思議そうな表情を見せたが、ウイラードの言う通り、二つの石を懐に忍ばせた。

「で、ベドブルの方は?」
 ファサーデが尋ねるとウイラードとベドブルは揃って首を横に振った。
「あの後、《化石の星》に行ってみたが、大人数で掘り返したんだろうな。山が形を変えてたよ」
「じゃあ石は?」
「だめだった。どうやら向こうにはとんだペテン師がいるらしい」
「向こう?」
「ああ、おそらく海賊も連邦も皆グルだ。おれたちから石を奪い取るために一芝居打ったようだ」
「バカバカしい」
「奴ら、石を手に入れてなかったからおれたちの行動の法則が読めなかったんだろう。それで石を強引に奪い取った」
「ひでえ奴らだ」
「だが石のからくりがばれちまった以上、向こうも本気になる。注意しなきゃなんねえぜ」
「レネが最初に『これは戦いじゃない』って釘さしてんじゃねえか」

「さあな、どこまで通用するんだか。そもそもレネが一方的に言っただけだから、連邦にはそんなルールを守る義務なんかこれっぽっちもない」
「まさか。連邦の文月は銀河の英雄だぜ。卑怯な真似はしねえだろ」
「ところがこの石の騒動に関して文月は蚊帳の外、代わりにトゥーサンって野郎が仕切ってるみたいなんだ。さっきもグリード・リーグのお偉方から連絡があった。連邦のトゥーサンって奴には気をつけろ、グリード・リーグを目の敵にしてるぞってな」
「そいつはやべえな」
「ああ、早いとこナカツやスピンドルと合流した方がいいんだが――」
「何だよ。そうしようぜ。向こうには腕自慢が揃ってんだろ?」
「まあな。連絡は欠かさないようにしておくよ」

 ファサーデが去り、ウイラードは一人考えた。
「こんな石に振り回されるつもりはない。未だ誰も成し遂げてない大偉業が目の前に迫ってるんだ」

 
 同じ頃、くれないも《鉄の星》の王都、プラを秘かに訪ねていた。
 『輝きの宮』の王宮でサラ女王がくれないを出迎えた。
「これはくれない議長。どうされました、突然に」
「実はサラにお願いがあって来たんです」
 サラはくれないの真剣な表情を見て、人払いをした。

「――何ですか?」
「預かってもらいたいものがあります」
「ちょっと待ってくださいね。『預かる』という意味は?」
「『秘密の回廊』です。あそこは異次元だと聞いてます。さすがに異次元に押し入る者はいないでしょう」
「なるほど。詳しくは伺いませんわ。禍の種を人知れず隠そうという事ですわね」
「その通りです」

 

 『血涙の石』、『純潔の石』:マリス所有
 『老樹の石』:連邦所有
 『戦乱の石』、『火焔の石』、『禍福の石』:レネ・ピアソン所有
 『魚鱗の石』:ナカツ所有
 『虚栄の石』:公孫風所有
 『変節の石』:ビリンディ所有
 『全能の石』:ゾモック所有
 『竜脈の石』:ニコ所有
 『深海の石』:くれない所有

 

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