目次
1 ウイラードの矜持
ヴァニティポリスを出発し、各地に散ったチームRPのシップ同士による連絡会議が行われた。
空間に浮かぶメンバーたちのヴィジョン映像が映る中、口火を切ったのはウイラードだった。
「スピンドル。ああは言って出発したものの本当に石なんぞ見つかるのか?」
名指しされたスピンドルは険しい表情のまま答えた。
「まだ公にはしていませんが、どうやら石同士は引き寄せ合うようです」
「とすると、一個石を持っていれば、次に向かうべき場所がわかるのか?」
「そうです。私はここにレネから預かった石を持っています」
「だったら、どこに行きゃあいいんだ?」
「ここからそう遠くない《火山の星》に行って下さい」
「よし、わかった。じゃあ『ディガー』はそっちに向かうぜ」
「そうして下さい。『プレディクト』は《海の星》に」
「わかった」
ナカツが答えた。
「スピンドル。あなたたちは?」
「我々は《地底の星》に向かいます。また連絡を取り合いましょう」
三方向に別れた十隻あまりのシップの内、ウイラード率いる『ディガー』の四隻は《火山の星》を目指した。
「キャプテン。《火山の星》に行った事はあるんですか?」
三号艇の通称「イルカのバティス」と呼ばれる海洋専門の冒険家からウイラードに連絡が入った。
「いや、その機会がなかった。あそこのヴラセン火山はいつか征服してやりたいと思ってたんだけどな」
「へえ、どうしてチャレンジしなかったんです?」
「……忌々しいが、既にデズモンドがそれに近い事をやってる」
「またデズモンドですか?」
「あいつがやっていない事をやらないと、おれの価値を証明できない。まったく歴史学者のくせに余計な真似しやがって」
「《智の星団》から戻って以降はおとなしいみたいですけどね」
「ただの老いぼれだ。遭難してすっかり臆病になったんだ――なあ、バティス。実はおれたちの最終目的地も《智の星団》なんだぜ」
「それにどんな意味があるんですか?」
「あの老いぼれが何も語ろうとはしないのは、つまり何も成し遂げちゃいないからだ。大方リン文月の息子に救助されるまで、がたがた震えてたんだろうよ。だからおれはあいつのできなかった事をやる――銀河に残された最後の未開の地、《智の星団》の完全解明だ」
「……大丈夫ですか?」
「安心しろ。こんな下らん石集めよりももっとわくわくする冒険が待ってる」
二号艇、通称「ハヤブサのファサーデ」から連絡が入った。
「ヴラセノの街が見えました」
「よし、ポートにシップを停めて、ヴラセン火山の火口まで歩くぞ」
四隻のシップはヴラセノのポートにシップを停め、そこから数名が立ち降りた。
一号艇のウイラード、二号艇のファサーデ、三号艇のパティス、四号艇、通称「穴掘りベドブル」の各リーダーに率いられた冒険のプロたちはほぼ無言でヴラセン火山を目指して歩き出した。
やがて火口ぎりぎりの所に建てられたヴラセン城が見えた。
ウイラードたちは城門で用件を告げ、城内に通された。
火山候、ボルケーノが訪問者の前に現れた。
「これはまた大人数で。どうされました?」
「おれの名はウイラード・ディガー、名前くらいは聞いた事あるんじゃないかい?」
ウイラードが周囲を威圧するような大声を出し、ボルケーノは一瞬眉をひそめた。
「そう言えば石を探す一団がいると街でも話題になっていましたが、確かリーダーがそのような名前ではありませんでしたか?」
「ちっ、そんなもんか。まあいい。ここにいる奴らはおれを筆頭にいずれ劣らぬプロの冒険家たちだ」
「ほぉ。それで?」
「ヴラセン火山に石があるんじゃないかって話でな。この星の支配者であるあんたに入山の許可を求めにきたんだ」
「お勧めはしませんが、止めてどうなるものでもなさそうです。自己責任においてお願いします」
「じゃあ早速火口に入らせてもらうぜ」
「どうぞ。この城をベースキャンプとして使って頂いて結構です」
そう言ってボルケーノが立ち上がろうとした時、ウイラードが口を開いた。
「なあ、あんた――」
「何か?」
「いや、何でもない。また後で話すよ」
「お気を付けて」
ウイラードに率いられた一行は意気揚々と火口に向かったが、初日は成果もなく戻ってきた。
「冒険はこうでなくちゃいけないな。明日はもっと深い所まで潜るぞ」
食事の席でウイラードは声高に宣言した。ボルケーノはそれを聞いて困ったような表情になり、視線を落とした。
「ボルケーノさん、心配しないでくれ。火口に潜るのはおれだけだ。後の皆には安全な場所にいてもらって、何かあったらおれを引っ張り上げてもらうだけだからよ」
次の日の夕刻、ウイラードは石を携えて意気揚々と城に戻った。
「見ろよ。ボルケーノさん。これは創造主グモの『火焔の石』だそうだ。石が向こうから話しかけてきたから間違いない」
「――見事ですな。危険を顧みずあの火口に飛び込む勇気、無事に戻ってくる運、一流の冒険家というのはかくあるべきでしょう」
「ちっ、もうちょい興奮してくれると思ったんだが、まあいい――なあ、ボルケーノさん。正直な気持ちを聞かせてくれ。あんたはデズモンドを知ってるだろう。デズモンドとおれ、どっちが優れた冒険家だと思う?」
「はて、デズモンド殿は歴史学者です。あなたと比べる事自体がおかしいのではありませんか?」
「あいつも火口までは行ったんだろ。何でそこから先には進まなかった?」
「その必要がなかったからです。必要のない場所に行く人間はいないでしょう」
「おれはデズモンドよりも愚かだって言いたいのか」
「正直に申し上げます。冒険家としての実力はあなたの方が上。いずれあなたの名は銀河中に知れ渡るでしょう」
「ふん、当たり前だ。おれはこの旅の究極の目標として、デズモンドが解明できなかった《智の星団》の秘密を暴く」
「……詳しい事はわかりませんが、デズモンド殿がそうされているのには理由がある、ヴラセン火山と同じように暴く必要がないから暴かないのではありませんか?」
「おれの方が優れてるのを証明するにはそれしかないんだよ」
「デズモンド殿の幻影に憑りつかれているようですな。無理をすると身を滅ぼしますぞ」
「ご忠告ありがとよ。おれたちは明日出発する。世話になったな」
『血涙の石』、『純潔の石』:マリス所有 『戦乱の石』、『火焔の石』:レネ・ピアソン所有 『虚栄の石』:公孫風所有 『変節の石』:ビリンディ所有 『全能の石』:ゾモック所有 『竜脈の石』:ニコ所有 『深海の石』:くれない所有