8.4. Story 2 もう一人の子

 Chapter 5 巴

1 ミチとムータン

 大陸にある王宮でコウと順天が話をしていた。
「困ったなあ」
 コウがため息交じりに呟くと順天が微笑みながら答えた。
「でもお母様お一人では何かと心細いのですよ」
「ママンはそんな繊細じゃあないさ」
「ひどい言い方――ねえ、コウ。常々思っていたんですけれど、私たちが双子を授かったのにはそれなりの理由があるからではないかしら?」
「あん、そんな事言ったらハクやコク、いや、アウラとヒナだって双子じゃあねえか」
「私が申し上げているのは、はるか昔のご先祖、ユウヅツとアカボシですわ。離れて暮らさなければならないのには理由があった」

「――ミチとムータンにそれが当てはまるってのか。で、どっちがママンの暮らす《オアシスの星》に行くってんだ?」
「難しいですけれども……ミチかしら?」
「そうなんのかな。ムータンの方がママン似なのにな」
「ムータンは龍の気が強く出ています。あの娘は手元に置いて見守ってあげないと」
「まあ、ミチはしっかりしてるし、社交的だから、知らない土地でもうまくやれるだろうけど――ムータンの龍の気ってのは何だ?」
「あの子は龍族の戦士、そう、蘇ったディヴァインと共に戦う運命」
「うーん、そもそもディヴァインは未だ消息不明だし、それにこの平和な世界じゃ、戦う機会なんてそうそうないぜ」
「あなたの戦いぶりをあの子が見れば、きっと目覚めるはずですわ」
「お、おう。しかし、そんな事起こるかな?」

 
 その晩の食事の席で、コウは二人の子に話をした。
 当事者のミチはひどく乗り気ではしゃいでいた。
「うん、行く、行く。アダンばあちゃんのところかあ。楽しいな」
 それに対して双子の妹、ムータンはむくれたような顔をした。
「ちょっと、ミチ。遠足に行くのとは訳が違うのよ。簡単には会えなくなるんだから」
「そうよ、ミチ」と順天も声をかけた。「ムータンの言う通り、遠い場所に行くのだから慎重に考えなさいね」
「大丈夫。ヴィジョンで話できるしさ」
「まあ、今すぐって訳じゃねえしな」
 コウが言った。
「そうだ。前から『火輪』が欲しいって言ってたよな。持ってっていいぜ」
「えっ、本当。いいの?」
「《オアシスの星》はその名の通り、砂漠ん中に町が点在してるんだ。火輪があれば移動が捗るだろうよ」

 コウとミチの話を聞いていたムータンの機嫌が悪くなった。
「えー、ミチばっかりずるーい」
「そんなにむくれんな。お前にはそのうち、おれの竜王棒を譲ってやるからよ」
「本当?」
「ああ、この先、おれが戦うかどうかはわからねえけど、それが終わったらお前のもんだ」

 

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