目次
1 連邦新秩序
たった今、銀河連邦議長就任のセレモニーを終えたばかりのくれないはため息をついた。
予てからの本人の希望通り、コメッティーノは二十年間務めた議長職を辞した。ナインライブズが発現し、その後のカタストロフによる銀河消滅の危機が去ったのを見届けてから間もなくの事だった。
コメッティーノはくれないを議長に推挙したが、くれないは固辞した。八人の兄や姉たちの犠牲の上に成り立つ銀河をまとめ上げる精神状態にはなかったからだ。
だが連邦運営の手伝いはさせてもらうと伝え、イマームが議長代理に、くれないが副議長になった。
二年が過ぎようとした時に、イマームがくれないに伝えた。
「くれない。私ももう年だ。議長の職を全うする自信がない。どうか正式に議長になってくれんか?」
くれないは悩んだ。《巨大な星》のマザーに相談をしたかったが、《祈りの星》での一件以来、行方知れずとなっていた。
七武神たちにもアドバイスを求めた。皆、「受ければよい」という意見だったが、リチャードだけは少し違った。
「くれない。こうして銀河のほぼ全ての星が連邦に加盟した今、連邦の位置付けとは何だ?」
くれないは「今まで通り、連邦民の生活を守る事」だと答えた。大きな戦いがなくなって物足りなさを感じているから、リチャードはそんな事を尋ねるのだと思った。
バスキアやデズモンドにも意見を求めた。二人とも示し合わせたように「好きにすればいい」という答えだった。
最後に各地の母たちに助言を求めた。全員が「やりたいようにやりなさい」と言い、それが決定打となった。
【くれないの連邦新秩序】
中央の役職は以下の通りとする。 ・議長 くれない文月 ・副議長 ヴィーナス ・副議長 トゥーサン ・書記 ノノヤマ ・連邦軍総司令 ゼクト・ファンデザンデ 行政大区画:従来の連邦版図について六つに分けた。 ・ダレン方面統括 アダン・マノア・文月 ・《鉄の星》方面統括 エスティリ・ブライトピア ・《巨大な星》方面統括 JB ・《武の星》方面統括 公孫水牙 ・《虚栄の星》方面統括 ランドスライド ・《エテルの都》統括 ニナ・コンスタンツェ・フォルスト・文月 新しく連邦に帰属した広大な範囲を五つに分けた。 ・(旧)『ウォール』方面統括 ヌニェス ・《戦の星》方面統括 ユゴディーン ・(旧)《大歓楽星団》統括 ミラ・ムスクーリ ・《享楽の星》方面統括 キザリタバン ・(旧)『マグネティカ』方面統括 ナイローダ 星の代表は以下の通りとする。 ・《商人の星》 連邦直轄 ・《七聖の座》 連邦直轄 ・《花の星》管理 ジュネ・パラディス・文月 ・《ネオ・アース》管理 文月源蔵 ・《再生の星》管理 リアカ ・《武の星》管理 公孫水牙(兼務) ・《将の星》管理 附馬烈火(兼務) ・《オアシスの星》管理 アダン・マノア・文月(兼務) ・《鉄の星》管理 サラ・センテニア ・《銀の星》管理 エスティリ・ブライトピア ・《巨大な星》管理 ジャンルカ・センテニア ・《虚栄の星》管理 ランドスライド(兼務) ・《エテルの都》管理 ニナ・コンスタンツェ・フォルスト・文月
これを見ると、文月家とセンテニア家が連邦において大きな地位を占めているのがわかる。
新たに連邦に加盟した星については以下の通りだった。 ・《神秘の星》管理 ホイットス ・《獣の星》管理 ヌニェス(兼務) ・《念の星》管理 陸天 ・《魔王の星》管理 陸天(兼務) ・《祈りの星》管理 ゾイネン ・《魅惑の星》管理 ミラ・ムスクーリ(兼務) ・《誘惑の星》管理 フォックス ・《密林の星》管理 ワイオリカ・ぺトラム ・《享楽の星》管理 キザリタバン(兼務) ・《囁きの星》管理 ナイローダ 連邦に正式加盟していないが、連邦と協力的な関係を宣言している星が以下の通りだった。 ・《守りの星》全権 パパーヌ ・《沼の星》全権 ブッソン ・《火山の星》全権 ヴォルケーノ ・《海の星》全権 珊瑚 ・《灼熱の星》全権 ファイアストーム ・《地底の星》全権 ネアナリス ・《精霊のコロニー》全権 ランドスライド(兼務) ・《幻惑の星》全権 ン・ガリ ・《霧の星》
『持たざる者』以外の種族が支配する星では、《獣の星》を除いては正式加盟とはならなかった。
連邦が出張所を設置し、観察下に置く星々は以下の通りだった。 ・《青の星》 ・《歌の星》 ・《鉱山の星》 ・《森の星》 ・《化石の星》 ・《茜の星》 ・《戦の星》 ・《蠱惑の星》 ・《ブリキの星》 ・《泡沫の星》 ・《起源の星》 ・《流浪の星》 ・《狩人の星》
これらの星々が連邦に加盟しない理由は以下に大別された。
(戦乱による荒廃からの復興途上) 『歌』、『戦』、『茜』、『起源』
(人口の少なさ) 『鉱山』、『森』、『化石』、『ブリキ』
(理念への抵触の恐れ) 『青』、『蠱惑』、『泡沫』
問題となるのは三つ目の事項だった。『原始的兵器の使用』、『禁止される呪術の使用』、『組織的犯罪への抵触』……これが改善されない限り、連邦への加盟はままならぬ相談だった。
出張所も設けず、定期的な巡回を行うだけの星も存在した。 ・《鳥の星》 ・《魚の星》 ・《智の星団》 ・《古城の星》
『空を翔る者』の暮らす《鳥の星》は元々連邦の援助を拒絶していた。
陸地のほとんど存在しない《魚の星》は《獣の星》のミナモ女王が定期的に赴いていた。
行く事さえままならぬ《智の星団》は唯一の帰還者、デズモンド・ピアナの主張により、巡回対象とだけなった。
くれないはその原因を尋ねたが、彼はその理由を話さなかった。
最後の《古城の星》については、捕えられたプロトアクチアが問題だった。
プロトアクチアは収監されてから一言も言葉を発さなかった。どうやら残党が彼の奪還作戦を計画しているという噂もあった。
元からそうだったが《古城の星》は無秩序状態だったため、出張所を設置するのはかえってリスクが高く、連邦は定期的な巡回を行うのみとなった。
軍政は十一に分かれた。 ・ダレンライン オリヴィエ・シェイ ・《鉄の星》、《巨大な星》ライン エスティリ・ブライトピア(兼務) ・(旧)『ウォール』ライン ファランドール ・《武の星》ライン 附馬烈火 ・《虚栄の星》ライン ジェニー・アルバラード ・《エテルの都》ライン ステファニー・アルバラード ・《囁きの星》ライン エンロップ・ファンデザンデ ・(旧)《大歓楽星団》ライン 公孫水牙 ・《享楽の星》ライン ロアリング ・《戦の星》ライン 公孫炎牙 ・遊軍 リチャード・センテニア
軍事に関しては公孫家とファンデザンデ家の独壇場だったが、連邦軍兵士は慢性的に不足していた。
《戦の星》や《起源の星》といった優れた兵士を生み出す土壌を持った星のソルジャーはようやくシップの使用に慣れたばかりで、実戦投入はまだ先の事だった。
セレモニーを終えたくれないは《七聖の座》、デルギウスの連邦府、かつてコメッティーノが使っていた議長室に入った。
ここでヴァニタスと戦ったのが昨日の事のようだ――