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20XX.9.XX 里帰り
しばらく日誌をつけるのをさぼっていた。
ぼくらは無事に『鎮山の剣』を手に入れ、《愚者の星》の近くでコメッティーノやゼクトと別れた。
「おい、デズモンド」
別れ際にコメッティーノがじいちゃんに声をかけた。
「普段の暮らしじゃあできねえ体験ができてなかなか楽しかったぜ。小僧のおかげで血も流さねえで済んだしな」
「ふん、おかげで運動不足だ」
「まあ、そう言うな」
ゼクトが口を開いた。
「ときにデズモンド、この後、自分らはどう行動すればいい?」
「うーん、そうだな。《鉄の星》で合流ってのはどうだ?」
「何だよ。おれたちだって忙しいんだぜ」とコメッティーノが言った。
「この非常時に何言ってんだ。それにお前ら、ロクな仕事してないだろ」
「けっ、仕方ねえ――まあ、あの有名なリチャード王との対面ってのは見物だからな。いっちょ付き合ってやっか」
「そうこなくちゃだ。じゃあプラでな」
シップは《オアシスの星》の上空にやってきた。
「ここがわしの生まれた星だ」
見渡す限りの海と砂漠が眼下に広がっていた。
「おじい様、どこに着陸すればいいのかしら?」
シップを操縦していた美夜が言った。
「あそこにわずかに緑のある場所が見えるだろ。あれがボヴァリーの町だ」
降り立ったボヴァリーの町は、『クロニクル』で読んで想像していたよりも、ずっと賑やかで栄えた大都市だった。
「そりゃあそうだ。連邦がないって事は、それぞれの星の自治が全てだ。この星なんて交易と観光でしかやっていけねえんだから、しっかりとした統治と自衛の仕組みが出来上がってんだよ――やり手ババアがいるしな」
じいちゃんはそう言って肩をすくめた。
町の中央まで歩くと一際立派な建物があった。
「ああ、でも変わんねえものもあるんだな。これが有名な『デザート・ムーン』だ。中に入ろうぜ」
幅の広い白い石造りの階段の途中にある踊り場には噴水があって、昇っていくとドアマンが恭しくドアを開けてくれた。
広いロビーに入るとじいちゃんは上機嫌で大声を上げた。
「デズモンド・ピアナが帰ったぞ。故郷の英雄のご帰還だ」
ロビーは一瞬、水を打ったように静まり返り、マネージャーらしい初老の男が駆けてきた。
「あの、失礼ですがピアナ家の?」
「そうだよ。ピアナ家のデズモンドだよ」
「これは。先代には大変にお世話になりました」
「そうかい。石頭の堅物だったろう?」
「いえ、そんな――どうぞ、こちらへ」