ジウランの航海日誌 (4)

 Chapter 6 ドノス

20XX.8.XX 大義を失くした剣士

 じいちゃんは困っていた。
 海賊コメッティーノの力を借りると言ってもどこに行けば会えるのか。
 ジュネ女王は《砂礫の星》に本拠があると言ってたけど、そこまで行って会えなかった場合、時間のロスが大きすぎるみたいだった。
「おじい様、どうしますか?」
 ノヴァリアの町中で美夜が尋ねた。
「ああ、《砂礫の星》ってのは《七聖の座》の事だ。わざわざそこまで行って空振りじゃあ、困るんだよな」
「先にゼクトに会うのがいいんじゃないですか?」
「そうだな。《商人の星》に向かうとするか」

 
 ジュネ女王と再会の約束をしてシップは《商人の星》に向かって出発した。途中でじいちゃんがシップの下に広がる宇宙空間を指差した。
「よく見とけよ。あれが身に余る破壊兵器を使った星の成れの果てだ」
 不思議な光景だった。遠目からはガスの塊にしか見えないが、あれが目指す《愚者の星》なのだろう。

 ぼくは疑問に思っていた事を口にした。
 あそこに『鎮山の剣』があるって事は、ノカーノが存在していてあの星に行ったって事?
 ぼくの言葉に続けて美夜も疑問を口にした。
「おじい様は以前、この世界ではノカーノはデルギウスに会ってないとおっしゃってました。とすると、ノカーノは何の目的で地球に行って、剣を手にしたのでしょう?」
 じいちゃんは頭をかきながら面倒くさそうに言った。
「そのへんが、このゲームの肝なんだろうな。ノカーノがこの世界に存在してたかどうかはわかりゃしねえ。だが剣はあそこに埋まってる。それはどうしてか――あの剣がある意味勝利の鍵を握ってるからだ」

 
 間もなく《商人の星》、ダレンの都に着いた。一見すると《花の星》、ノヴァリアとそんなに外観が変わらなかった。
「何、きょとんとしてんだよ。ははーん、ダレンが思ったより発展してないんで面食らってるな。そりゃそうだ、連邦が存在しないんだからな」
 それでもポートから歩いて町に入ると、広場があり、大小多くの商店が軒を並べていた。
「さてと、ゼクトはどこにいるかな」

 町の奥まった所にある商人ギルドの集会所に寄った。
「ちょいと物を尋ねてえんだが、ここにゼクト・ファンデザンデはいるかい?」
 じいちゃんが声を上げると集会所にいた商人たちは怪訝そうな表情でこっちを見た。
「珍しいな。積荷の件じゃなくて、用心棒に用があるなんて――あいつなら今出航中でもうすぐ戻る予定だよ」
「用心棒ってからには腕が立つんだろ?」
「ああ、他にも何人か契約してるが、その中じゃピカイチさ。その分契約金も高い。あんたたち、見かけない顔だけどどこの商人だい?」
「《青の星》だ」
「……《青の星》?あそこは渡航禁止だし、そもそもシップなんざねえって話じゃねえか」
「そうさ。星の外に出た最初の人間って訳だよ。よろしく頼まあ」
「そいつはいいや。商売の機会が広がる――でもその前にルーヴァの使い方を学ばねえとな」
 そう言って商人たちは大笑いし、じいちゃんも一緒に笑った。

 
 それからたっぷり二、三時間後、どやどやと足音を立てて商人たちが戻ってきた。じいちゃんと話し込んでいた商人が顎で入口の方を示すと、商人の列の最後に大柄な男がいた。
 短髪に青い目、背中に背負った大剣、とうとう伝説の七武神の一人に会う事ができた。
 一人の商人がゼクトに近付いてひそひそと話をした。ゼクトは軽く頷いてから、こっちのテーブルにやってきた。

「用事があるというのはあなたたちか?」
 ジュネ女王の時もそうだったけど言葉が通じるか不安だった。でもじいちゃんは「お前らは選ばれたプレイヤーなんだから言葉が通じないでどうする」と笑い飛ばしたが、果たしてその通り、コミュニケーションには何の問題もなかった。
 きっとぼくらにはゲームの主催者側からポータバインド的な何かが与えられているんだろう。

 
「珍しいな。自分に客人とは」
 ゼクトはそう言って大剣を背中から降ろし、テーブルの空いた席に腰かけた。
「どこから来られた?商人には見えないが」
「《青の星》だよ。わしはデズモンド、孫のジウランにその嫁の美夜だ」
「渡航禁止区域か。あの星にはシップなどなかったはずだ」
「《青の星》と聞いて思い当たる事は?」
「ないな。行った事もないし――いや、待てよ」
「ほら、あるじゃねえか。夢だろ?」
「デズモンド、どうしてそれを……するとこの青年がリンか?」
「言ったろう。こいつはわしの孫のジウランだ。リンはこの世界にはいねえよ」
「そうか。あいつは夢の中の存在か。しかしデズモンド、何故自分の夢の内容を知っている?」
「それはよ、あんたが言ってる夢、リンがいる世界が本物でこっちの世界が夢みてえなもんだからさ」
「ふふっ、何を言い出すかと思えば怪しげな売り込みか。生憎そういうのには引っかからんぞ」
「何と言われても気にしねえさ。事実の世界が戻りゃあ、あんたが一番気にしてる事も解決するんだがな」
「――それが何かわかっているとでも言うのか」
「銀河覇王の進攻――違うか?」
「もしもその事実の世界が本当だとしたら、銀河覇王の非道はないと言うのか?」
「ないね。あっちの世界に比べりゃこっちは悪夢だ」
「――どうしてもう一つの世界の事を知ったような口を聞けるんだ?」
「わしらには事実の世界の記憶が完全に残ってるからだよ。だからそれを取り戻すために戦っている」
「戦う、どうやって。覇王と一戦交えようというのか?」
「ああ、そのためにあんたの力が必要だからここに来た」
「……ごめんだな。金になる仕事以外は受けない」
「あんたに前面に立って戦ってもらおうなんて考えてねえよ。ただある物を取りに行くのに協力してもらおうと思ったのさ」
「ある物だと?」
「おお、《愚者の星》の奥深くに眠る『鎮山の剣』さ」
「いかれた奴だな。《愚者の星》に行こうとは――だが面白い。付き合ってやろう」
「どうしても剣が必要なんだ。あんたは耐性持ちだろ?」
「無論だ。だが『怨嗟の毒樹』をどうする?」
「あんただけじゃねえ。コメッティーノにも協力を仰ぐつもりだ」
「何、《砂礫の星》の海賊か――」
「何だよ、まずい事でもあるのか?」
「いや、ない。ないのだが、どうも奴とは波長が合わないような気がする」
「そんな事気にすんなよ。事実の世界ではおめえとコメッティーノは名コンビだ。」

「なあ、デズモンド。教えてくれないか。その事実の世界とやらでは――」
「どこまで夢の内容を覚えてるか知らねえが、あんたは銀河連邦一の将軍、アナスタシアっていう可愛い嫁さんと子供のエンロップと幸せな家庭を築いてるよ」
「ほぉ、そうか」
 ゼクトが頬を赤らめたのを見てぼくと美夜は笑った。
「何がおかしいんだ」
「ごめんなさい。笑ったりして」
「いや、いい。それよりデズモンド。コメッティーノにどうやって会うつもりだ?」
「問題はそれなんだよ」
「あいつは神出鬼没の海賊。そんな偶然任せでは会えないな」
「あんたはコメッティーノと何度も顔を合わせてんだろ?」
「昔はな。その度にやりあったが、ある日を境にぴたりと会わなくなった。どうしてだかわかるか?」
「――なるほど。スパイか」
「その通りだ。自分の出航予定をコメッティーノに知らせている者がいる。今からそいつに会いに行こう」
「とっちめるのか?」
「いや、コメッティーノに出てくるように伝言を頼む」

 

登場人物:ジウランの航海日誌

 

 
Name

Family Name
解説
Description
ジュネパラディス《花の星》の女王
ゼクトファンデザンデ《商人の星》の商船団のボディーガード
コメッティーノ盗賊
ハルナータ《賢者の星》の最後の王
アダンマノア《オアシスの星》の指導者
エカテリンマノアアダンの母
リチャードセンテニア《鉄の星》の王
ニナフォルスト《巨大な星》の舞台女優
ジェニーアルバラード《巨大な星》の舞台女優
《巨大な星》、『隠れ里』の当主
陸天《念の星》の修行僧
ファランドール《獣の星》の王
ミナモ《獣の星》の女王
ヌニェス《獣の星》の王
マフリセンテニアヌニェスの妻
公孫転地《武の星》の指導者
公孫水牙転地の子
ミミィ《武の星》の客分
王先生《武の星》の客分
ランドスライド《精霊のコロニー》の指導者
カザハナ精霊
アイシャマリスのパートナー
デプイマリスのパートナー
マリス覇王を目指す者
マルマリスの父
ツワコマリスの母

 

 Chapter 6 ドノス

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