7.2. Story 3 欲すは力

 Story 4 ヌエ

1 渇望

 ハクとコクが着いたのはオリジンの大陸の近くの大きな島の沖にある連邦の出張所だった。
 チコの言葉通り、この地域では連邦が常駐しているため、さしたる混乱も起こらずに平静が取り戻されつつあるようだった。

「良かったじゃないか。深刻なダメージがなくて」
 報告にきた連邦の係官を前にコクが言った。
「はい。幾つかの魔物の出現事例はありましたが、いずれも大事になる前に対応できました」
「魔物以外は?」
「それがですね。かつてこのリージョンにいた独裁者、もちろん我々は面識がありませんが、それが蘇ったという一報を受けまして」
「どうなったんだ?」
「逃げ込んだサバンナで象に踏み殺されました」
「こいつはいいや。自業自得ってやつだな」
「ではこのリージョンでは何も問題はありませんね?」

 ハクが念を押すと係官は答えた。
「このリージョンではありませんが、大陸の『デザート』に泥の巨人が出現したとの報告を受けています」
「大陸ですか?」
「ここからもウエストからもイーストからも距離があるので、なかなか手が回らないのです。まださほど被害は出ていませんが、このままにはしておけません」
「泥の巨人とは?」
「ゴーレムと呼ばれる伝説の存在ではないかと推測されますが、それ以上の情報は入ってきておりません」
「わかりました。私たちが行きます」

 
「この辺りは昔から紛争が絶えない地域なんだってな」
 係官から聞いた魔物の目撃情報の報告された場所近くの破壊された都市を歩きながらコクがぽつりと言った。
「ああ、この辺りの破壊だってきっと魔物によるものじゃあなくて、人間が聖地を巡って起こしたんだ。それは遥か昔からでディエムが出現しても変わらず続いたらしい。異なる宗教が同じ場所を聖地として仰いでいればそうなるのも当然だ」
「だが今は静寂を取り戻している。皮肉なもんだな。いっそ、このまんまでもいいんじゃないか」
「そういう訳にはいかないさ――コク、地下から何かくるぞ」

 ハクたちは空中に逃れ、地上に現れた泥の巨人を見下した。
「おいでなすったな――ハク、一発お見舞いしてやろうぜ」
「ああ」

 二人は空中で向き合い、「雷」「電」と唱えた。稲妻が泥の巨人の脳天を直撃し、泥の巨人はもろくも崩れ落ちた。
「けっ、他愛もねえな」
「いや、コク。見てみろ」

 地面が轟音を立て、再び泥の巨人が姿を現した。
「効いてないのかよ」
「もう一発いこう」
 ハクとコクは先ほどよりも大きな稲妻を巨人目がけて落とした。巨人はぐずぐずと崩れたが、又すぐに復活した。
「おいおい」
「確かにまずいな」

 
 何度稲妻を落しても、その度に泥の巨人は復活した。
 打つ手なく途方に暮れた二人の背後から声がかかった。
「コアを見極めろ。そうしなければ止めは刺せぬ」

 声に驚いた二人が振り向くと、そこに立っていたのは白の袷を着たケイジだった。
「ケイジ、何故ここに?」
 ハクの質問にケイジは袖から腕を抜いて言った。
「ウエストに渡る途中に偶然立ち寄ってみればこのザマだ」
「返す言葉もねえよ」とコクが吐き捨てるように言った。「そう言うケイジにはコアとやらが見えてんのかよ」
 ケイジは黙って巨人に背を向けて歩き出した。訳のわからないハクとコクは慌ててケイジを追いかけた。
「中にばかりあると思うな。付いてこい」

 
 向かったのは古い神殿の遺跡だった。巨人は離れた場所からこちらにゆっくりと近付いてきた。
 ケイジは神殿の外壁に近寄り、集中を高め、刀を一閃させた。
 すると巨人の動きがぴたりと止まり、そのままぼろぼろと崩れ落ちた。
「こんな場所に――」
「全くだめだな。弟たちに追い越されて焦る気持ちはわかるが、今のままでは足を引っ張るだけだ」
 ケイジは背を向けて去っていった。

 
 残されたハクとコクはその場に呆然と立ち尽くした。
「何でえ。カッコつけやがって」
「いや、コク。ケイジは私たちを助けるためだけにここに来てくれたんだ。ウエストに行くのにこの辺りを通る必要などないからな」
「俺たちがそれだけ心許ないって事か」
「そうだな」

「……なあ、ハク。俺が今何を考えてるかわかるか?」
「わかるとも。双子だろ」
「そりゃそうだ――なあ、俺は強くなりてえ。セキや茶々に負けない強さが欲しい」
「私も同じだ。これほど強さを渇望するとは思わなかった」

「ところでお前、さっきディエムの事、言ってたよな?」
「ん、それがどうかしたか」
「ここから一番近い『起源のディエム』は元々人が寄り付かない場所だから行っても仕方ねえが、ヨーロッパの『巡礼のディエム』はどうなってるかと思ってな」
「――なるほど。魔物たちが襲わない聖域となっているとすると興味深いな」
「行ってみようぜ。どのみちこの辺はもう終了だ」

 

先頭に戻る