ジウランと美夜の日記 (14)

 Chapter 7 帝国

20XX.8.4 真の敵

 じいちゃんは夕方近くに戻った。
「おい、こりゃあ雨になるな。真っ黒い雲がもっくもくだ」
 ねえ、じいちゃん、宇宙に出るとなると『耐性』訓練が必要でしょ――
「ばか。お前は半分地球人じゃねえんだ。訓練なんか要らねえよ。美夜さんだってそうだ、精神力が並はずれてっから、たった今出かけたって大丈夫さ」
「おじい様」と買い物から帰った美夜が声をかけた。「昨日の話なんですけど」
「おお、最後の敵の話だな――

 お前らはもうわかってるだろうが、最後の敵と真の敵は別もんだ。
 真の敵はArhats、つまり銀河の創造主だ。こいつらに勝つには力じゃねえ。事実の世界を取り戻しゃあいいだけだ。
 じゃあどうやって取り戻すか、それについちゃ、妙案があるんだが今は言わないでおこう。
 事実の世界を取り戻せば銀河は無事。銀河覇王も銀河を平定できるって寸法だ。そうすると最後の敵との最終決戦が待ってる。
 もうわかってるだろうが、そいつがいるのはこの星だ。そいつの名は藪小路了三郎――

「幾度もその名を聞き、『クロニクル』でも目にしました。どんな男ですか?」
「この星の人間じゃねえ。藪小路なんて名前も嘘っぱちだ。奴ははるか昔に『上の世界』からやってきた。上の世界ってのも種類があるみてえで、Arhatsが住む、次元や時間を飛び越える能力を持った奴らの世界もありゃ、『死者の国』みてえのもある。藪小路はそんな能力は持ってねえ上の住人だが、転生、姿を変えながら生き永らえる事ができるみてえなんだ。わしらから見たらほとんど不死の存在だな」
「不死……勝つ事は難しそうですね」
「心配すんなって。死なねえけど消えるみてえだから、完全に消しちまえばいいんだ」
「でもそれはノカーノの力……」
「まあな、正確にはノカーノの血を引く者の中にごく稀に現れる力だな。その代表がリンだった。リンの息子たちは九人ともその力を備えちゃいねえ」
「ではリンが復活しないと」
「ところがそう上手くはいかねえんだな。リンは今回のゲームの駒の差し手、新しい創造主の一人だ。たとえ事実の世界が戻ったとしても、リンは現れねえってわしは思ってる」
「だったら、どうあっても負けますね」
「まあな、藪小路も今頃は枕を高くして眠ってるだろうよ。何しろ奴にとっちゃ、今の世界だろうと事実の世界に戻ろうと、自分を消滅させかねないリンはいないんだからな」
「そんな……」
「だがどこかに奴を打ち破る方法はある」
「えっ、それは?」
「だからそれを探しに宇宙に出るんだよ。銀河はこれだけ広いんだから誰かいるだろ」
「……そんな賭けみたいな」
「何と言われようが負ける訳にはいかねえ。可能性は最後の一瞬まで追求するもんだ」
「おじい様、実は勝算おありなんじゃないですか?」
「んな訳ねえだろ。とにかくわしは負けたくないだけさ」
「あたしも同じです」
 ぼくも少し遅れて頷いた。

 

登場人物:ジウランと美夜の日記

 

 
Name

Family Name
解説
Description
貫一葉沢内閣調査室勤務。身寄りのないシゲの世話をし、ジウランたちに協力を申し出る
もえ市邨美夜が「おばさん」と呼び慕う女性
釉斎天野『パンクス』日本支部長
ケイジワンガミラの剣士

 

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