5.1. Story 1 創造主の気まぐれ

 Story 2 宗教対立

1 光と熱の失われた日

 その日は突然訪れた。
 巡航中のシップから《七聖の座》の連邦府に緊急連絡が入った。
 《七聖の座》の恒星が光を失ったという知らせだった。
 連邦はこの突然の事態に対して直ちに調査団を派遣すると共に、デルギウスを中心に暮らす人々の避難準備を開始した。
 住民をパニックに陥れず、迅速に物事を処理しなければならなかったが、ここで活躍したのが連邦の文官、トリチェリという人物だった。

 
 トリチェリは七聖メドゥキから連なる血筋の人物だった。
 メドゥキは連邦の草創期、実務に抜群の才能を発揮したが、私生活の派手さでも知られていた。
 一時は主星デルギウスに居住する女性のほとんどがメドゥキの愛人ではないかと言われるほど手当たり次第に関係を持ったと噂された。
 町を歩けばメドゥキの子を名乗る者がそこかしこに存在し、メドゥキはそんな子たちを真贋関係なく自分の子供として認知した。
 一説には三桁に近い数の子供たちがメドゥキの子だったとも言われる。やがて成人した彼らのある者は連邦の運営を精力的にこなすメドゥキの右腕となり、又ある者は商才を発揮して連邦に富みをもたらし、それが『メドゥキギルド』の原型となった。
 ギルドはかつてメドゥキに援助を受けた子供たちが「今度は自分たちが世間に恩を返す番だ」と考え、半ば自然発生的に生まれた。
 その鉄の掟は「金を稼ぎ過ぎた場合は溜め込まずに社会に還元する」事だった。私利私欲に走る人間は強く諌められ、常に社会の底辺への目配りがなされた。

 
 トリチェリはギルドのネットワークを活用して、いち早く行動を開始した。
 《巨大な星》にいたイマーム、《商人の星》のノノヤマといった連邦の文官たちと連絡を取り合い、住民の受け入れ準備を速やかに行った。
 これ以上《七聖の座》に人が暮らすのは不可能という公式の調査結果がもたらされる頃までに、何千万という住民の避難手続きをすでに完了させていた。
 多くの住民は《商人の星》と《巨大な星》に避難し、デルギウスの地表温度が下がる前に、略奪や暴行を防ぐため最後まで星を見守る連邦軍の下で粛々と星を出ていった。
 こうして《七聖の座》はほぼ無傷のまま廃墟となった。
 連邦の一文官に過ぎなかったトリチェリはこの時の功績が認められ、後に連邦議長に選任された。

 議長に選任されたトリチェリはイマームを副議長に、ノノヤマを書記に任命して《商人の星》で連邦の運営を再開した。
 銀河が過酷な運命の波にさらされようという、まさに激動の時代の幕開けであった。

 
 それは《青の星》で言えば、太平洋戦争が開戦し、星を挙げての戦争に突入した頃の出来事だった。

 

先頭に戻る