ジウランと美夜の日記 (11)

 File 9 残された場所

20XX.8.1 帰還

 いきなり頭を殴られた。
 慌てて枕元を見るとじいちゃんが仏頂面をしてあぐらをかいていた。
「お前は呑気だな。美夜さんを見ろ。朝からかいがいしく働いてるじゃねえか」
「いいんですよ。おじい様。あたしは仕事に出かける準備をしていただけですから」
 美夜が台所から顔を出して笑顔で答えた。
 あれ、美夜、仕事は――
「急遽、休みを取ったの。だってそうでしょ。せっかくおじい様と会えたのに仕事なんかしてられないわ」
「さすがはよくできた嫁だ。おい、ジウラン。ぼやっとしてると美夜さんに捨てられるぞ」

 だんだんに目が覚めてきて、無性に怒りが込み上げた。
 今までの恨みつらみを一方的に吐き出したが、じいちゃんはけろっとした顔で「美夜さん、味噌汁の具は豆腐にしてくれよ」と言ってぼくを無視した。
 さらに頭に来て文句を言おうとすると、じいちゃんは「わかった、わかった。後で全部聞くから」と言って部屋を出ていった。

 ご飯に味噌汁、アジの開きにお新香の朝食が終わり、熱いお茶を美味そうに飲み干してから、じいちゃんが口を開いた。
「さて、『パンクス』に行くぞ。お前らも来るか」
「えっ、今からですか?」と美夜がびっくりして声を上げた。
「ああ、奴らもわしの報告を待ってるだろう」

 美夜が「実は……」と昨夜の話を始めた。聞いていたじいちゃんは「うん、うん」と頷いた。美夜の話が終わるとじいちゃんは大きく伸びをした。
「思ったより、お前ら、といってもほとんど美夜さんだが、成長速度は速かったな。大体合っている。それにケイジ、やっぱり事実の世界の完全な記憶がある奴は違うな。完全にやるべき事を理解している――じゃあ予定は変更だ。わしは寝るぞ」
 ちょっとじいちゃん、ぼくの質問は――
「ああ、そうだったな。だが美夜さんの話をお前も理解できているのなら、今更、質問などないだろう。違うか?」
 困って美夜を見たが、美夜は知らんぷりをしていた。仕方なく一つだけと言って質問をした。
 じいちゃんはリンに会って確認をしたの――
「なるほど。答えるに値する質問だな――答えはNOだ。どこの世界にルール確認を対局中にするチェスプレイヤーがいる?おらんだろう。そういう事だ」
 じゃあ、やり方も何も、根本的に間違っているかもしれないじゃないか――
「あのなあ、その時はその時だろう。わしはプレイヤーとして選ばれた時点で自分の解釈をするしかないんだ。間違っていたとしたら、それはわしを選んだリンの責任だ」
 何か無責任じゃない――
「無責任?こんな大それた事に責任なんか取れるもんか……だがお前がそこまで心配するなら大真面目に答えてやろう。全ては推測だが、その推測をまとめ上げれば、ある一点を指しているから、そこに向かうしかない。さあ、わしはもう寝るぞ」

 じいちゃんはそう言ってふらりと外に向かった。
「おじい様、どちらに?」
「あんたらの邪魔はせんよ。ビーチで寝てるから、日が沈む頃に起こしに来てくれ」
 じいちゃんは一つウインクをして外に出ていった。

 

登場人物:ジウランと美夜の日記

 

 
Name

Family Name
解説
Description
貫一葉沢内閣調査室勤務。身寄りのないシゲの世話をし、ジウランたちに協力を申し出る
もえ市邨美夜が「おばさん」と呼び慕う女性
釉斎天野『パンクス』日本支部長
ケイジワンガミラの剣士

 

 File 9 残された場所

先頭に戻る