5. Chapter 8 蜜月の終焉

 Story 1 英雄候補たち

 とても賑やかな一日だった。
 劇場の花形、アン・ハザウィーの引退公演で朝から劇場の前には人が溢れ返った。
 そんな中あたしはいつも通り、淡々と仕事をこなした。
 当日券なんて朝のうちに売り切れたから仕事はもっぱら切符を求める人にお断りをする事だった。

 後で同僚の女の子に聞いた所によると、いきなり偉い人のご子息たちがやってきて席を確保させたという事だ。
 あたしが切符売り場から座席案内業務に移った時にそれらしき客はいなかったから、大方貴賓席でも用意させたのだろう。

 どこにでも権力をかさに着て、無理を通す馬鹿な人間がいるものだ。あたしはそう思ってその客の顔を見てやろうと貴賓席を覗いた。
 もしゃもしゃの黒髪の若者と金髪が美しい若者が並んで座っていた。

 同僚の女の子たちはすっかりのぼせ上って休憩室で「どっちがいい男だろう」、「片方は連邦の要職の人のご子息でもう一人はとある星の皇子、決められないわ」などと他愛のない話をしていた。

 そんなのあたしにはどうでもいい事だった。だってあたしにはオンディヌという名前以外の記憶がないんだから。

 ――あの金髪の青年、どこかで会った事があるような気がするのは何故だろう?

 

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