5. Chapter 3 カザハナ

 Story 1 アレクサンダーの情熱

 気が付けば、私はこの世界に出現していた。
 精霊は一人で気ままに行動するのを好む種族だが、私は違った。
 前の世代の精霊たちが《古の世界》で人間を見捨てた事を深く恥じ、積極的に人間と交流を図る事に努めた。

 私と似た属性、風と水の偉大な精霊がいた。
 初めは彼の下に身を寄せた。
 しかし彼、『開拓候』の興味は専ら《精霊のコロニー》という精霊のための安住の地を作る事にあった。
 彼の行いは立派だったが精霊の世界の中だけで閉じていた。
 私は彼の下を離れた。

 この世界にはあと三人、偉大な精霊がいるという話だった。『火山候』、『豪雨候』、『錬金候』。
 手始めにコロニーから一番近い所の《茜の星》にいる錬金候に会いに行った。
 会って驚いた。『開拓候』と『錬金候』は瓜二つだったのだ。

 『錬金候』はこう言った。
 同時に出現した『開拓候』が全ての良心の部分を持っていき、自分には邪悪な心しか残らなかった。
 自分は人に望まれようと思っていないし、人を救う気持ちもない。
 ただやりたい事をやって、やがて自然に還っていくだけだと。

 私は彼に興味が湧いた。
 彼を救えば、それはつまり人間を救う事になるのではないかと思い上がっていたのかもしれない。
 そうして彼と行動を共にする事にした。
 この時折、エキセントリックな振る舞いを見せる精霊は、非常に人間たちに感謝をされた。もっともその大半は胡散臭い犯罪者たちだったが。
 私が自覚のないまま彼の悪行に手を貸していたのを教えてくれたのが冒険家デズモンド・ピアナだった。

 本当に善良な人間を救うために彼の下を離れようとした時、彼は新たな話を持ってきた。
 聞いてみると、それは人間どころかこの銀河を救う話だった。

 それは私の名を取って『カザハナ計画』と名付けられた。
 今こそ、私は銀河に平和をもたらす『全能の王』の出現のために喜んでこの身を捧げようと思う。

 

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