4.4. Report 3 繁栄の御世

 Report 4 魔王の祠

Record 1 リベンジマッチ

 シップは《享楽の星》に向けて突き進んだ。
「JB、疲れてねえか?」
 わしは操縦席のJBに声をかけた。
「こんなの屁でもねえぜ――それよりよ、気付いてんだろ」
「ああ、さっきから付けられてるな」

 そこは目的地にはまだ大分距離がある宇宙空間だった。
「どうする、撒くか」
「いや、用事があんだろ。たとえ海賊でも『金が欲しい』って用事がな」
「じゃあどっか近場の星に停めるか」
「相手の出方がわかってからでも遅くない。それまでは適当に進んでくれよ」

 シップは追跡者をあきらめさせないよう絶妙な推力のまま宇宙空間を進んだ。
「尻尾を出しそうか?」
「いや、だがこいつらあまり組織化されちゃいないな。おそらくただの海賊だ」
「そろそろお灸をすえてやるか」
 シップを近場の岩だらけの小惑星に停めた。
 やがて宇宙空間におよそ十隻のシップが姿を現し、こちらに向かってくるのが見えた。

 
「やっぱり海賊か――皆、戦う準備をしといてくれ。ノータはシップにいろ。JBは俺たちを降ろしてからどっか安全な場所に退避だ」
「おいおい、キャプテン、おれにも活躍させてくれよ」とJBが不満を漏らした。「地上じゃ役に立たなくてもあのシップの五隻やそこら、沈めてみせるぜ」
「自信たっぷりじゃねえか。んじゃ、お手並み拝見といこうか――だがまずは奴らの出方を伺ってからな」

 空間にいる十隻のシップが地上のシップを取り囲むように待機し、声が聞こえた。
「おい、デズモンド。この声を忘れたとは言わせねえぜ」
「いや、知らん。誰だ?」
「相変わらずふざけた野郎だが、まあいい。こんな名もない惑星で死んでいくてめえを哀れに思ったおれがバカだった」

 
 シップから一人の男が船外に身を乗り出していた。
「あれ、お前。死んだんじゃなかったか?」
「冗談じゃねえ。てめえに復讐するまでは死んでも死にきれねえ。だから頼み込んで再び改造手術を受けたのよ。このブギー・アンドリュー様は不死身だ」
「ああ、確かそんな名前だったな。前会った時は半分機械だったけど、全部機械になっちまったか」
「なあ、デズモンド。挑発するのもたいがいにしておいた方がいいんじゃないか。あいつ、かなり怒っているぞ」と船内のGMMが声をかけた。
「いいんだよ。怒らせときゃ。あんなのは小物だ。あいつを改造した奴らの方がずっと手強い」
「それは誰だ?」
「この先の《享楽の星》にいるム・バレロって呪術師と後はジュヒョウっていう精霊さ」
「ここはどうにも戦わなくてはいけない雰囲気だな」
「シップから降りるか。JBが面白いもん見せてくれるみてえだし」

 
 GMM、アン、わしが小惑星に降り立ち、JBのシップは勢いよく出発した。
「この野郎、逃げるのか」
 アンドリューが罵声を浴びせ、わしは応戦した。
「馬鹿、よく見やがれ。俺はここにいるだろうが」
 わしの声に空中の海賊たちが気を取られた隙にJBの操縦するシップが急旋回し、海賊たちのシップの鼻先をかすめて飛んだ。
「おい、てめえら、その小うるさいシップを撃ち落せ」
 アンドリューが命令し、海賊のシップたちは急いでJBを追いかけ始めた。
 残ったシップからはアンドリューが子分たち数十名を率いて地上に降りた。

 
「へっ、皆殺しにしてやるぜ」
 アンドリューの姿はわしが小馬鹿にしたのとあまり変わらず、全身のほとんどが不気味な錬金呪文を施した金属で覆われていた。
「GMM、アン、雑魚は頼む。俺はこの機械野郎と決着付けるからよ」
「へらず口叩いてられるのも今のうちだけだ。おう、野郎共、三人だからって油断するんじゃねえぞ」

 
 アンドリュー一味との戦いが始まった。
 アンはすぐさま近場の岩陰に身を隠し、そこから『火の鳥』を発射した。
 GMMはゆっくりと足を引きずりながら別の岩陰に向かって歩いた。剣を振りかざし、背後から襲い掛かった海賊たちは降り注ぐ隕石に次々に倒された。
 わしはアンドリューと睨み合ったまま、じりじりと間合いを詰めた。

 向かい合ったわしらはほぼ同時に攻撃を仕掛けた。先にわしの拳がアンドリューの顔面を捉えた。アンドリューは大きく後ろにのけぞったが、かろうじて吹き飛ぶのをこらえ、反動で体重の乗ったパンチを返した。パンチは的確に右の頬にヒットし、わしは勢いよく吹き飛ばされた。
「へへへ、いいパンチだったぜ。もう満足したろ、いつまでもこの世にしがみついてねえで『死者の国』に旅立てよ」
「てめえ、たとえ『死者の国』に行くにせよ、道連れだ」
「ぞっとしねえな――それよりもお仲間の心配はいいのか?」
「何!」

 アンドリューは慌てて周囲を見回した。隠れていたGMMとアンは岩陰から出て、残った数人を打ち倒す所だった。
 視線を戻したアンドリューに今度は上を指差した。JBが操縦するシップだけが戻ってきていた。
「わかったかい」
 わしは最後の敵を倒して近付いたGMM、アンとハイタッチをした。
「おめえ一人しか残ってねえって事さ」

 
「くっくっく」
 突然にアンドリューが笑い出した。初めはこもったような笑いだったが、やがて大笑いに変わった。
「何がおかしいんだ。とうとうおかしくなっちまったか」
 アンドリューは笑うのを止めたが、まだおかしそうにしていた。
「いやな、てめえの仲間は生かしてやってもいいかと思って子分どもに相手させておいたが、それを全部倒しちまいやがった――可哀そうになあ。てめえら、皆殺しだあ!」
「大した自信じゃねえか」
「あっはっは、これを見やがれ!」

 アンドリューの体が一瞬膨れ上がったように見えたかと思うとぐんぐん大きくなり、とうとう身の丈十メートル以上に巨大化した。
「どうだ。ジュヒョウにもらったこの体、てめえに復讐するこの日を待ってたぜ。あっはっはあ」
「こりゃ、巨人よりでかいな。本当の化け物だ」
「だまれ!」
 アンドリューの巨大な足がまるでアリとなったわしを踏みつぶすように振り下ろされた。それを寸前で避けると大きな足跡が地上に残った。
「デズモンド」とGMMが言った。「こんな怪物相手に一対一もあるまい。加勢するぞ」

 GMMは一歩下がってから「メテオ!」と叫んだ。無数の隕石がアンドリュー目がけて降り注いだが、アンドリューはくすぐったそうな顔をするだけだった。
「……効かんか。仕方ない――グランドマスターメテオ!」
 今度はGMMの頭上に白熱した巨大な火の玉が浮かび上がった。火の玉は炎の尾をまき散らしながらアンドリューの頭部に激突した。
 アンドリューの動きが一瞬止まり、やがてゆっくりと片膝をついた。
「……で、でめえら……」
 アンドリューは鮮血に染まった顔を上げて叫んだ。
 『火の鳥』を撃とうとしていたアンを止めて、わしは跪くアンドリューの顔面と正対した。
「もういいだろう。楽になれ」
 全力の拳がアンドリューの顔面にめり込んだ。ぴしっと言う嫌な音が小さく聞こえ、アンドリューは崩れ落ち、うつ伏せに倒れて動かなくなった。
 黙ってアンドリューの亡骸に礼をしてからGMMを見ると、肩で息をしながらわしに向かって親指を立てた。
「おい、GMM、すごいな」
「まあな、一発撃つのがやっとだ。体が持たん」
「ゆっくり休んでくれよ。すっかり寄り道しちまったな――おおい、JB、《享楽の星》に向かうぞ」

 

先頭に戻る