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Record 1 冒険家の生い立ち
ソントン、ノータ、トーグル、そしてわしの四人でアンフィテアトルから南を目指した。シップを使えばわずかな時間だったが地下車両で行く事にした。
「トーグル、悪いな。最新のシップを手に入れるために古いのを売っぱらっちまって、今、お足がねえんだよ」
「いや、地下車両の旅も又、楽しいさ」
「で、どんなのがお好みだ。東のヌエヴァポルト経由で都会の香りを感じるコース、砂漠を突っ切ってまっすぐ目的地を目指すコース、西のダーランに出てそこからダグランドまで陸路を歩いてもう一回地下車両に乗るコース、どれでも選べるぜ」
「……西には直行便がないのか?」
「ああ、大陸の中央にあるネコンロ山からダーランまでの地下は大河が流れてて路線が確保できねえらしい。で、ダグランドまで歩かなきゃならん」
「危険だな」
「まあな」
「観光は別の機会でいいさ。直行便で行こう」
「よし、決まりだ。ネコンロの東の砂漠を突っ切る車両で行こうや」
移動中の車内でトーグルが言った。
「金がないような事を言ってた割には、毎晩、酒を飲む金はあるんだね?」
「かあっ、わかってないね。それは別だろう……それに飲み代は全部ツケだ」
「デズモンド、君は《オアシスの星》の名家の生まれなんだろ?」
「ん、お前。俺の生い立ちを聞きたいか。なら話をしてやるよ」
トーグルはそんな意味で言ったのではなかったろうが黙って話を聞く体勢に入った。
――俺が生まれ育ったのはボヴァリーって町だ。俺の家、ピアナ家は星を支配する一番の名家マノア家に代々仕える身分だった。
俺の祖父も親父も堅実な使用人だったが俺はそうじゃなかった。ガキの頃から乱暴で外を出歩く方が好きだった。
親父はそんな俺を見て、こいつには使用人はできないと悟ったんだろう、十九だった俺を呼びつけて「お前のなりたいものは何だ」って尋ねた。
俺は考える間もなく「冒険家だ」と答えたが、親父はしばらくの沈黙の後にこう言ったんだ。
「ただの冒険家ではだめだ。今の時代に必要なのは銀河の歴史を明らかにする歴史学者だ」
俺はすぐに反論した。何しろ、何とか学と名の付くもんは一番嫌いだったからな。すると親父はまた言った。
「銀河の歴史を明らかにするためには命がけの冒険が必要だ。これほどお前に適した仕事はないだろう」
親父は俺の肩を叩いて「まずは隣の《沼の星》に行ってみろ」と言った。
ははーん、親父め、俺を試してるなと思った。隣の星には『水に棲む者』の生き残りの巨大な魚がいるって話だったが、誰も話をした者はいなかった。冒険家になるにしても歴史学者になるにしても、その魚に出会えないようじゃ見込みがないぞと言いたかったんだろう。
俺は親父の宿題に答えるためにすぐにそこに向かった。
でかい沼のほとりで待っていると、夜中にそいつが現れた。
そいつはブッソンと名乗った。背中の一部だけが見えていたが、あまりに巨大過ぎてその沼に全身が入り切らないんじゃないかと思った。
そいつは俺に向かって「久しぶりに面白い人間が訪ねてきた」と言った。人と話すのはデルギウス以来だとも言った。その時に俺は選ばれた人間なんだって思ったよ。
ブッソンは俺に《古の世界》の話をしてくれた。帰り際に、沼のほとりに石版があるからそれを持って帰れと言ってくれた。きっと俺が親父に証拠を見せなきゃならないのをわかっていたんだろう。
俺は親父にブッソンからもらった石版を見せた。親父は黙って頷いただけだった。
そうして俺は《巨大な星》に来て、十年経ってようやく冒険に出る寸前までこぎつけた――
――って訳だ」
「ふーん、《オアシスの星》のエカテリン・マノアとは時々話をするよ――しかし十年間、スポンサーが現れなかったのかい?」
トーグルの質問にわしは苦笑いをした。
「お前がもっと早くに来てくれればな。まあ、それは冗談だが、実際に銀河の歴史を紐解こうなんて考えに賛同してくれる奴はいねえんだよ。ようやく今回、これから会うスポンサーが見つかったんだが、何をご所望なんだかな」
「宗教関係の方だと言ってなかったか?」
「ああ、この星じゃあ知らない者はいねえ。『古の聖女』とか言われてんなあ」
「……それはもしかすると」
「ああ、そのもしかすると、だ。さあ、もうすぐ着くぜ」