4.1. Report 2 連邦の発展

 File 2 Pax Galaxia

Record 1 制度の統一

 

連邦憲章

 連邦憲章の要約、それは「強制しない」の一語だ。その星が本来持つ幸福の尺度を変えてまで連邦の考えを押し付ける真似はできない。例えば自然の多い牧歌的な雰囲気の星に《虚栄の星》のような最先端の都市文化を導入しても、その星が幸福になるとは限らないという事だ。

 憲章には幾つかの共通禁止事項があるだけだった。
 ・加盟する星が原始的破壊兵器を保有、使用の恐れがある時はこれを除名する事がある。(銀河叡智15「創造と破壊」13「原始的破壊兵器の使用・保持の禁止」)
 ・加盟する星の人間が『死者の国』に干渉する事、すなわちネクロマンシーを行った場合これを厳しく罰する。(同「ネクロマンシー、生命操作の禁止」)
 ・上記に違反する点が見受けられた場合は加盟の見送り或いは除名をするが、連邦による一定の観察期間を設ける事とする。
 但し星に致死率の高い伝染病等存在する場合は、加盟の如何に関わらず連邦の医療技術によりこれを救う事を最優先とする。(銀河叡智1「連邦員」5「連邦への加盟条件」)
 ・星として連邦に加盟できない場合であっても該当する星の個々人が連邦員として認められる場合がある。これは観察期間から正式加盟までの間に限定される。(同「特例措置」)

 連邦に正式に加盟が認められると連邦府の出張所を最低一か所は設けなければならない。また『連邦コマンド』と呼ばれる自衛組織を作る事が義務付けられている。

 

暦の統一

 銀河の歴史を通して初めて暦が統一された事は特筆すべき出来事だった。

 デルギウスによって定められた暦法
 《七聖の座》主星デルギウスの公転日数三百六十日を十二に分割

 ・空を翔る者の月   アーゴ    Argo
 ・水に棲む者の月   ワンクラ   Wankla
 ・地に潜る者の月   ネボラ     Nebola
 ・精霊の月      オーラ     Aura
 ・応龍の月      アルトマ   Ultoma
 ・聖者の月      サフィア   Safia
 ・剣聖の月      エクシラ   Exyla
 ・戒律の月      アダーニャ Adania
 ・変節の月      ウシュケラ Ushkela
 ・隠遁の月      ニライ     Nirai
 ・懊悩の月      ルンビア   Rumbia
 ・全能王の月     デルギラ   Delgila

 デルギウスは連邦設立宣言の日をAW(After Wisdom)元年、空を翔る者の月一日とした。
 それ以前の年代を表す時にはBU(Before Unity)と称した。

 これは公転をしない星に住む者、例えば《鉄の星》の住民には大いに歓迎された。一年が三百六十日に統一された事により、住民は初めて自分の年齢を数値として実感するようになったのである。

 

通貨の統合

 それまではサフィが《古の世界》から持ち込んだルーヴァという通貨単位が使われる事が多かったが、連邦設立に伴い正式にギーク(GCU:Galaxy Currency Unit)が採用された。
 尚、100RVA=1GCUで固定、(1GCUは約500円)となる。

 実はこれには少々きな臭い噂が付いて回る。
 一体、誰がGCUの価値を決定しているのかという話だ。
 連邦の公式見解ではORPHANが最適と思われるレートを自動的に計算しているそうだが、もしこれが人為的に操作可能であれば何が起こるか?

 幸いな事にこの平和な千年間でそのような不祥事がただの一度も問題になる事はなかったが、これから銀河が混乱していけばどうなるかはわかったものではない。

 

度量衡の単位の統一

 度量衡、いわゆる物の長さ、容積、重さについてだが、銀河連邦は統一単位の提唱に失敗している。
 この件について偶々、バーに居合わせた『フェデラル・ラボ』の専門家に訊く機会があった。

 

「なあ、カレンダーや通貨を統一できたんだから、物の単位の統一もできるだろ?」
「デズモンドさん、そうおっしゃいますが物凄く深い問題なんです。例えばこのポリートのグラス、重さはどれくらいでしょうね?」
「うーん、そうだな」と言って、わしはグラスを片手で持って大体の重さを感じ取った。「大体、30ロントってとこじゃねえか」
「ですよね。この星のこの場所ではそのくらいの重さになります」

「あ、わかった。重力だな」
「真っ先に懸念された点はそこでした。この30ロントのグラスを倍の重力の星に持っていった場合、そこでは30ロントなのか、それとも15ロントなのか、或いは全く別の重さにすべきなのか、もし30ロントに統一した場合、果たして30ロントというのは軽いという認識になるのか、重いになるのか……失礼、取り乱しました」
「なるほどな。それぞれの星で重さってのは変わるって事か」

「ですが挫折した最大の原因はもっと別の点だったのです。それは『次元』です」
「ん、よくわからねえな」
「こう考えるとわかると思います」

 そう言うと男は自分のカバンの中から紙とペンを取り出した。
 紙の対角線に当たる両端に二つの点を描いてそれぞれにAとBと記した。
「今、このAとBの間の距離はどれくらいでしょう?」
「うーん、そうだなあ。5パースルから6パースルってとこじゃねえか」

「ではこうすると?」
 男はAとBが重なり合うように紙を二つに折った。
「そりゃあ距離なんてねえさ。ゼロだ」
「ですね。これと同じで距離などというものに何の価値観も持たない星があったとしたらどうでしょう?」
「5パースルなんて言ってもピンとこないし意味がないわな。だがよ、色んな星を旅したがそんな連中にはお目にかからなかったぜ」

「あくまでも可能性の話です。ですが私たちは理解したのです。カレンダーや通貨のように人為的に造ったものの単位を統一する事はできても、元から自然界にあるものの単位を統一する事は不可能だと」
「ずいぶんと弱気だな」
「ええ、物のサイズを決定する創造主がいると聞きますが、その方に対する挑戦になってしまうのではないでしょうか?」
「グモか――まあ、そこまでいくと最早、制度でも科学でもねえな」

 結局、ラボは単位の変換機能をポータバインドに組み込む事にした。
 これによりその星で使用している従来通りの単位系を未だに使用しているという訳だ。

 

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