デルギウスたちが成し遂げた『銀河の叡智』は銀河に劇的な進歩をもたらしたと言われている。
おそらく無数の叡智が発現したのだろうが、その中でも特筆すべきはこの二つだと信じている。
・物理的につながる事:『ダークエナジー航法』によって距離が問題ではなくなった
・通信でつながる事:『ポータバインド』によって遠く離れていても瞬時に連絡が取り合えるようになった
もう一つ大事なもの、『精神的につながる事』が成し遂げられていない事には最近気づいた。
まあ、今はそれを話すタイミングでもない、まずはどうやって銀河がつながったかを紐解こう――
振り返って『銀河の叡智』とは何だったのか。千年の間に《七聖の座》の惑星直列が発生したのが十数回、その都度銀河の様々な場所で大小様々な叡智が起こった。
小さなレベルでいえば酪農家が画期的な餌やりの方法をひらめいたという叡智もあったろうし、大きなレベルでいえばこれから紹介する『ポータバインド』の発明のような叡智もあった。
数十年おきにこういった小さなひらめきから大きな発明までが銀河の至る所で発生したので、正確な統計を取るのは不可能だった。
何よりも残念だったのは叡智によって引き起こされた事象に一喜一憂するだけで、誰も叡智そのもののメカニズムを究明しようとはしなかった事だ。
人間の神経回路が突然に新しいつながり方をするのを科学的に解明しろと言っているのではなく、一時にこうした叡智が多発する原因を冷静に考えるべきだったのではないか。
もちろんそうした試みがなかった訳ではない。ある物理学者は《七聖の座》の各惑星の公転エネルギーから何かが出ているのではないかと言い、神秘学者はこれこそがArhatからの贈り物だと言ってはばからなかった。
結局、納得する答えが出ないままに千年あまりで叡智の発現は唐突に終わる。《七聖の座》の恒星がその熱と輝きを再び失ったのだ。
わしは物理学者でも神秘学者でもない。冒険家と呼ぶ者もいるが、自分ではただの冒険好きな歴史家だと思っている。ちゃんと学問を学んできた訳でもないから科学も神秘学もわからない。だが史実として、あの銀河にとっての幸福な期間の記録を残すのがわしの使命だと思っている。
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