目次
1 デルギウスの蹉跌
ノカーノは数年ぶりにプラの大門をくぐった。きょろきょろと辺りを見回すアカボシは『鎮山の剣』を背負い、その手は父の手を固く握っていた。
「アカボシ、着いたぞ。ここが《鉄の星》だ」
「とと様、あのお空に浮いているのはお月さま?」
「いや、あれは、《銀の星》、ディーティウス王という賢い王様が治めているんだ――それから人前では『とと様』ではなく『父様』と呼んだ方がいいぞ」
「あい」
「『あい』ではない。『はい』だぞ」
ノカーノとアカボシは王宮に入った。玉座ではすでにデルギウスが待っていた。
「ノカーノ、ずいぶんと時間がかかったな」
「連絡もせず、すまなかった」
「すでにクシャーナとリリアから話を聞いている。ローチェはとうの昔に亡くなっていたようだな。だが君のおかげでヤバパーズたちを仕留められた、大した力の持ち主だと感心していたぞ――で、何故時間がかかったか。その隣の子が君の子であれば《青の星》で家庭を持ったか。ならば何故もっと早くに連絡してくれなかったのだ?」
「デルギウス、確かにこの子は私の子、アカボシだ。母は……ローチェだ」
「……ん……君が《青の星》に行った時には、ローチェはすでにこの世の人ではなかったろう?」
「その通りだ。だがそれでは君に申し訳が立たないと思い、ヤパラムの力を借りて『死者の国』より復活させた。ヤパラムを倒した事により、ローチェは生まれたての赤子のようになってしまった。彼女を元に戻そうとしている内に……アカボシが生まれたのだ。ローチェはこの子が五歳になった日に『死者の国』へと戻った」
「……にわかには信じ難いが、『死者の国』に関わったのだな」
「ああ」
「君が出発した後に連邦憲章で死人返しは固く禁じた。本来であれば君は罪人になるのだが」
「どんな罰も受けよう。約束も果たせていないしな」
「いや、あのヤパラムを消滅させた功績がある――あと一つ、私の依頼を受けてくれればそれで帳消しだ。いいな?」
「それは何だ?」
「《花の星》と《商人の星》の間に新しく人が暮らし始めた星がある。王となり、その星を治めてはくれぬか?」
「……私が王……その頼みは受けられないな」
「ではこうしよう。王はアカボシで君がその後見人となるのではどうだ?」
「……わかった。慈悲ある裁きに感謝するぞ」
「何を言うんだ。我らは仲間ではないか」
ノカーノたちが下がった後、デルギウスは人払いをした。しばらくの間、俯いていたが、やがて苦しげな呻き声とともに立ち上がり、猛烈な勢いで太い石の柱を拳で殴りつけた。
「何故、こうなった。何が『全能の王』だ。たった一人の女も救えなかったではないか!」
デルギウスは天を仰ぎ、嗚咽した。
「ノカーノは一人の女性を救った。おそらくローチェは微笑みながら『死者の国』に帰っていっただろう。私よりもよほど優れたあいつこそ銀河を束ねるにふさわしい者ではないか――だが私は負けん。私の子孫、新たなる『全能の王』とノカーノの子孫でどちらが優れた指導者となるか、そこではっきりさせてやる」
デルギウスは呼吸を整えると大臣を呼び付け、以前から薦められていた縁談を受ける旨を伝えた。