目次
1 大型シップ
デルギウスが《鉄の星》に突然帰還した。戻るなり王宮にも立ち寄らず、プラ市街にあるケミラの工房をファンボデレンと訪ねた。
「ケミラ、元気か?」
「デルギウス様じゃないですか。シップの調子はどうですか?」
「ああ、最高だ。部材の確保はできているか?」
「それについてはディーティウス様と相談して《巨大な星》に駆動部を売り込みに行きました。その見返りに推力部分のユニットを優先的に調達できるように――あ、まずかったですか?」
「いや、ディーティウスの意見は私の意見だ。何も問題ないよ――それにしてもシップの製造は色々大変なんだな」
「ええ、大元の推力って奴が科学的に解明されていないですからね。ピエニオスの所で独占しているんですよ。でも今度の『暗黒物質』で逆にうちにしか作れない技術が生まれたんで、これで立場は対等ってもんだ」
「なるほど。人は育っているか?」
「予算を頂いてるおかげで優秀な人材を雇えました。三人くらいはもう外に出せます」
「では早速行ってもらいたい星があるんだ。まずは《歌の星》と《森の星》、《念の星》にそれぞれ一隻ずつシップの納品、それから《虚栄の星》に中型シップを一隻献上と技術講習、ついでに途中にある《武の星》での売り込みもやって欲しい」
「そんなにですか。納品の方は弟子ができるにしても《虚栄の星》は自分がやらないと無理だし」
「いや、君には他にもやってもらいたい事がある――ああ、紹介が遅くなった。私の隣にいるのはファンボデレン、その《虚栄の星》の傭兵だった男だ」
「よろしくな。すごいシップの生みの親か」
「よろしく。で、やる事って何ですか?」
「ファンボデレンの夢は今までに誰も率いた事のない船団を指揮する事なんだ。そのためには超大型旗艦は欠かせない。ファンボデレンと君とでその超大型シップを設計してもらいたい」
「わ、わかりました。ファンボデレンさん」
「呼び捨てでいいぜ」
「じゃあファンボデレン、早速イメージ合わせをしようか」
デルギウスは静かに工房を出ていこうとして立ち止まり、口を開いた。
「ケミラ、一つだけ知りたい。超大型というのはどのくらいの大きさになるんだい?」
「デルギウス様、ご存じだと思いますが普段乗られているシップは中型、収容人員は最大でも十名程度、小型シップを五隻程度格納可能です。小型シップはその名の通り、定員二、三名程度です。大型になると定員約三十名、シップの格納は中型二、三隻、小型なら十隻弱といった所です。実はこの大きさというのはサフィの移住の頃からあまり変わってないんです。その理由と言うのは――」
「推力」
「その通りです。従来の航行技術は推力だけに依っていたからサイズを大きくすると性能が出ないんです。性能が出ないどころか操縦者の命の危険を招く事だってあります。推力の低い操縦者の操るマーチャントシップなんかは、泣く泣く亀のようなスピードで航行しています」
「だが『ダークエナジー航法』を使えば?」
「百人単位での輸送が可能になるはずです」
「なるほど――君はすでにピエニオス商会にシップを見せたと言ったね。そうなるとどっちが先に超大型シップを完成させるか、時間との戦いだね」
「なあに、心配要りません。最近のピエニオス商会にはそんなに優秀な技術者が揃っていません。むしろ心配なのはペイムゥトの方ですよ」
「ペイムゥト?」
「デルギウス様も今言ったばかりじゃないですか。《武の星》の船団を作り上げた武器製造集団ですよ」
「ファンボデレン、そんなに優秀なのか?」
「うむ。従来のシップを徹底的に研究してどうやら自分たちなりの推力の仕組みを完成させたらしい――『五元』の教えと関連した特殊なものだろう」
「それはすごい。推力と組み合わせたのか。であれば『ダークエナジー』と『五元』を組み合わせたらどんなにすごいものができるんだろう」
「デルギウス様、感心している場合じゃないですよ。確かに奴らの技術は特殊だから他の星や商人たちに売れるものではありません。でも銀河一の性能を叩き出すのは、このケミラ工房でなくちゃならないんです。『全能の王』のお膝元にある者のプライドです」
「お前の気持ちはわかった。では《武の星》についてはあちらから接触してくるまで待とう」
「そうして下さいよ。じゃあ私はファンボデレンの案内で《虚栄の星》まで行ってきますから。道々相談もできますしね」