あの朝、父さんはあたしの寝ている枕元に立った。
あたしが目を覚まして「どうしたの?」と尋ねたら、父さんはあたしの頭を撫でながら言った。
「リリア、起こしてしまったか。済まなかったな。父さんはこれから出かける。いい子にして待ってるんだぞ」
あたしはベッドから跳ね起きて、木くずとタバコの匂いがする父さんのシャツにむしゃぶりついた。
「やだ、やだ。父さん、あそこに行くんでしょ。やだ」
「リリア、どうしても行かなければならないんだ。なあに、心配要らないよ。ボグザルはかつて親友だった男だ。夜までには帰るから、ちゃんと戸締りしておくんだぞ」
父さんはそれきり帰ってこなかった。
キーソムの人たちが変わり果てた姿の父さんを発見したのは五日後の事だった。
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