2.1. Story 1 シロン

 Story 2 閃光剣士隊

1 志願

 《幻惑の星》を平定した閃光覇王の軍勢が《魅惑の星》に凱旋した。この星特有の淡いピンクの空の下、誇らしげな行軍が続いた。
 王都ムスク・ヴィーゴまでの沿道では領民たちが色取り取りの花を投げ、歓声を上げた。
 隊列の戦闘は濃紺の鎧に身を包んだ閃光覇王、ドードと言う名の武装した獰猛な耳熊に跨っていた。
 騎馬隊と工兵隊がその後に続き、後列は歩兵隊だった。
 華やかな隊列の殿(しんがり)を務めるのは、覇王の剣士隊、大剣『グラヴィティスウォード』の使い手ドロテミスと『鬼哭刀』の使い手ツクエだった。

「しかし我が王の勢いは昇る朝日のようだな」
 大剣を背負った大柄なひげ面のドロテミスが隣の剣士ツクエに話しかけた。
「うむ」
 濃い緑の花鳥模様の袷を着崩したツクエが両の腕を袖に入れたまま物憂げに答えた。
「《誘惑の星》の半分を平定し、《幻惑の星》も沼地を除き、我が王の支配下になった。後は《蠱惑の星》を手中に収めれば、星団が全て我が王の物となる」
 ドロテミスが意気込んで言うと、ツクエが静かに言葉を返した。
「外の星にも同じように勢いのある征服者がいると聞く」
「おお、それよ。我が王が外に勢力を伸ばしていけば、いずれはそういった王との争いという話になるなあ――」

 
 ドロテミスが日焼けした顔を曇らせて次の言葉を発しようとした時、隊列の先頭の方から人々のざわめきが聞こえた。
「ん、何かあったか?」
「行ってみるか」
 ツクエが肩をゆすって歩き出し、ドロテミスもその後を追った。

 
 行軍の最前列ではちょっとした騒ぎが起こっていた。一人の子供が隊列の行く手に座り込み、石畳の道で頭を垂れたまま動こうとしなかった。従者が子供をどかそうとしたが、手荒な真似もできずに苦笑いしていた。
 ドードにまたがった覇王が優しく声をかけた。
「そこな子よ。私に用があるのであれば後程聞こう。今はめでたき凱旋の隊列、まずは城へと帰してくれぬか」
 往来の真ん中で頭を下げていた子供は顔を上げた。まだあどけない顔をした少年だった。
「真にございますか。私は《誘惑の星》のシロン、斯様な形で失礼とは存じましたが、覇王の一軍に加えて頂けますよう志願に参りました」
「志願兵か。であれば間もなく後から来る大剣のドロテミスに願い出るがいい。だが私の軍は厳しいぞ。お主のような華奢な体では特別な技でも持たぬ限り、到底務まるとは思えんが」
 覇王は兜の下の端正な顔をほころばせて言った。
「ありがたき幸せ。ではドロテミス様を待つ事に致します」

 シロンと名乗った子供はそう言って道の端に避けた。覇王を乗せたドードが傍を通り過ぎる際にシロンの顔をじっと見つめ、にやりと笑った。
「珍しい。ドードが笑ったぞ。シロンとやら。どうやらお主は戦の神に愛されているようだ。あっはっは」
 ドードの笑顔に気付いた覇王が高笑いをしながら去っていった。

 
 間もなく隊の後方からドロテミスとツクエが追い付いた。
「お前さんか。騒ぎの主は」
 ドロテミスがシロンの顔を覗きこみながら尋ねた。
「は、はい。覇王の軍に加えて頂きたく、ここでお待ち申し上げておりました」
「ふーん、小僧、名前は?」
「シロンにございます」
「じゃあ、おれの後に付いてきな。試験は後でゆっくりとやってやらあ。何、今は人手不足だ。お前さんのような奴でも何かの使い道は――」

「拙者は認めんな」
 ツクエが両腕を袖の中に突っ込んだままで言った。
「何だよ、ツクエ。どうしてだ」
「戦場に女子供がいては足手まとい――それだけだ」
 ツクエはそう言ってすたすたと歩いていった。
「何だ、あいつ――まあ、気にすんな。付いてこい」
 ドロテミスはシロンを従えて歩き出した。

 

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