目次
1 星の名の由来
ニライと別れたサフィたちは宇宙空間を進んだ。
途中で前を行くシップが停まり、ウシュケーがサフィのシップまでやってきた。
「サフィ様、私はここから右手に進みます」
「ウシュケー、行く当てはあるのかい?」
「いえ、進んで行けばどこかに着くでしょう。そんなに遠くまでは行けませんし」
「気をつけるんだよ。そうだ、ウシュケー。君に贈る言葉を――
あなたには『変節』の名を授けましょう。 あなたが新しい教えに目覚めたのならば、それを貫き通しなさい。 人を救う事の本質に変わりはないのです。
「……サフィ様。なかなか深いお言葉です」
「そうだね。君はもうわかっているはずだよ。ああ、あともう一つ」
サフィはアビーからもらった麻袋から種を取り出し、ウシュケーの掌の上に置いた。
「これは……何かの種ですか?」
「《巨大な星》にも埋めてきたけれど、種を手に取った瞬間、とても気持ちが高揚した。あれほどではないにせよ、この種はほっとする」
「確かにそうですね。きっと私が向かう先の星には祝福が待っているでしょう。ありがとうございました」
「落ち着いてからでいい。その種を大地に埋めてほしい」
やがてウシュケーのシップは一つの星団に近づいた。
「ウシュケー様、星団です」
操縦席のシーホが言った。
「人が住める星があるか調べてみよう」
ウシュケーたちは星団の星をいくつか見て回った。
「二つほど文明の存在する星が見つかりました。大きな星と小さな星です」
「……最初から高望みは良くないな。小さい星にしよう」
シップは小さな方の星に着陸した。
十数名を連れて辺りを歩き回り、こじんまりした町の入口とそこの住人らしき老人を発見した。
「失礼ですがこの星は何という名前でしょうか?」
ウシュケーの問いかけに日向ぼっこ中の老人は怯えたような表情を見せた。
「ここはムシカ……《祈りの星》のムシカの町じゃ」
「《祈りの星》……何と素晴らしい名前でしょう。この場所こそが私の約束の地――」
「いや、あんた、そりゃあ勘違いじゃて」
老人は物凄い形相で慌てて否定したが、目の見えないウシュケーは微笑んだままだった。
「勘違い……ですか?」
「ああ、うう、悪い事は言わん。早々にここを立ち去るがいい」
老人は逃げるように去っていった。
シップから一緒に降りたシーホが「何だったんでしょうね?」と言った。
「人見知りなだけじゃないかな。さて、この町の責任者に会いに行こう」
シーホに言いつけ、人々を町の入口に待機させると、たった一人で町の中に入っていった。視覚以外の音や匂いを敏感に感じ取りながら、町の目抜き通りを歩き、首を傾げた。ここにあるのは恐怖に打ちひしがれた囁き声と死だ――ウシュケーは異様な雰囲気に気付いて立ち止まった。
町の入口から叫び声が聞こえた。急いで人々の下に戻ろうとすると、数人の足音がこちらに向かってくるのを感じた。ウシュケーは平静を装いながら足音に向き合った。
「よぉ、おめえが町の入口にいる奴らのリーダーだな?」
声をかけたのは、顔中ひげもじゃのごつい男で、頭にはつばの付いた灰色の帽子を乗せていた。男は他の男を率いて肩で風を切って歩いてきた。
「この町の指導者のお方ですか?」
「見りゃわかんだろ――ってお前、目が見えないのか」
「はい」
「おいらはロッキってんだ。お前は?」
「ウシュケーと申します」
「そうかい。ウシュケー、早速で悪いがお前とお前の仲間たちは拘束させてもらったぜ」
「何故ですか?」
「お前、町の入口でじいさんに聞かなかったかい。この星は《祈りの星》だと」
「確かに聞きました。斯様に信心深い星であれば幸せに満ちた日々を過ごせると思い、着陸したのです」
「わっはっは。そりゃあとんだ勘違いだったな。どうしてこの星がそう呼ばれてるかっていうとだな。殺される前に誰もが最後の祈りを捧げる場所だからって事でおいらが名付けたんだ。いい名前だろ?」
「大きな勘違いをしていたようですね」
「驚いてねえようだな。それとも恐怖で縮み上がって驚く事もできねえか」
「……私にあなたを責める資格はありません。私もこの手で人を殺めました」
ウシュケーが黙り込んだのを見て、ロッキはにやりと笑った。
「言われてみりゃあ、お前、強そうだ。どうだ、おいらの右腕にならねえか」
「人殺しを生業とするつもりはございません」
「じゃあ仕方ねえな。お仲間と一緒にお縄についてもらおう。話は後でゆっくりと聞くからよ」