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1 ロアランド
サフィ、エクシロン、ルンビアの三名で一隻を、ウシュケーとニライはそれぞれ百人の移住者を乗せたそれぞれのシップを操縦して再び宇宙空間に出た。
前を行くシップが停まり、ニライがサフィのシップまでやってきた。
「サフィ様、私はこれで――」
ニライがカリゥと共に頭を下げた。
「この近くに星があるんだね。カリゥ、お母様を助けるんだよ」
カリゥはにこりと笑って、もう一度ぺこりと頭を下げた。
「ニライ。これが君に贈る最後の言葉だ――
あなたには『隠遁』の言葉を授けましょう。 あなたは内なる世界に閉じこもる事になりますが、遠い未来に現れるあなたの末裔こそ、大いなる可能性を秘めた者となるでしょう。
「意味は?」
「さて、私にもこれ以上の事はわからない。君と君の子孫自身が確かめるんだね――ああ、もう一つ渡す物があったんだ」
サフィは懐から麻袋を出し、一粒の種をつまみ上げた。
(おや、これは《巨大な星》でのわくわくするような感じとは違う。やはり種に種類があるか……だが取り直しはできなさそうだし、このままとするか)
「……サフィ様?」
「ごめん、ごめん。この種を君が向かった先の大地に埋めてほしい」
「何かのおまじないですか?」
「創造主の祝福だそうだよ」
シップが灰色の雲が厚く垂れ込めた星に着陸すると、しばらくして人がやってきた。
「これはニライ様、ご無事でいらっしゃいましたか。ライゴットにようこそ」
背の高い老人がうやうやしく一礼した。
「ズーテマ様」
昔のようにスカーフで顔を覆ったニライが答えた。
「予定よりも遅くなりました」
「いえいえ、では早速、居留地、失礼、入植地にご案内しましょう」
ニライはズーテマと共に再びシップに乗り込み、予定された場所の上空に到着した。
「ここはロアランドの隣、ノイロアランドと名前をつけました。どうぞここでお暮し下さい」
ニライはシップに乗っていた百人を連れて地上に降りた。地表のあちらこちらから岩がむき出しになっていて、あまり良い土地とは言えなかった。
「上下水道は南のロアランドからすぐに引けるはずです。岩は……ご覧の通り、岩の多い星ですから」
辺りを見回せば確かに大陸の東側は険しい岩の峰々が連なっており、一番東には台形の頂上をした一際高い山がそびえていた。
「東の山々は?」
「ああ、手前からババナ山地、ライゴ山地、一番奥の台形の山が『聖なる台地』です」
「どのような人が住んでいるのですか?」
「まさか――行くのも一苦労の場所です。聖なる台地に住む人間などおりませんよ」
「ズーテマ様、ありがとうございました。早速、水道の整備から始めます」
それからしばらくの間、ニライたちは黙々と作業に勤しんだ。上下水道を引き、仮設住宅を設置し、大地から出る岩を取り除いた。
「ニライ様、どうにか住めるようになりましたね」
リーダー格のアーノルドが声をかけた。
「皆の力ね。《古の世界》よりもサディアヴィルよりも、このノイロアランドを住みやすい町にしましょう」
「それはそうと……時折、ロアランドの人たちが様子を見に来ていますね」
「……他所の星から来た人間は珍しいに決まっているわ。彼らとは友好的に、助けてあげられる事があれば喜んで協力するのよ」
三十昼夜ほど経った頃には、農地が開墾され、工房や、雑貨屋が開店した。
視察に来たズーテマは感心した面持ちで話しかけた。
「いや、驚きましたな。わずかな期間でここまでの町を作られるとは。ところで教会や礼拝堂もお作りになられるおつもりですか?」
「いえ、皆が集まれる集会所程度は作ると思いますが。ちなみにこの星の皆様が信仰されている宗教についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「……特別なものはございませんな。何しろ文明のレベルがあまり高いとは言えませんから。はっはっは」