1.2. Story 2 決着

 Story 3 再生の時

1 悪魔の主張

 ナラシャナはレイキールに連れられて、『白花の海』に戻った。
 面倒を見ていた侍女たちはすでに暇を出されていて、ナラシャナはブッソンの棲家の近くの離宮に案内された。離宮にはポワンスもおり一見、寛大な処置に見えたが、出入口には四六時中厳重な護衛が付く事実上の幽閉だった。

 
 ワンクラールの病状はいよいよ悪化し、寝たまま過ごす日々が続いており、王の間にはレイキール、ムルリ、それにヤッカームがいた。
「どうやら無事にナラシャナ様を奪還されましたな――」
 ヤッカームの言葉にレイキールは眉を吊り上げた。
「奪還とは聞こえが悪いな。姉上を保護してくれていたのを連れ帰っただけだ」
「それは何よりですな。ただ私がこの件をお伝えしなかったら無事に返して頂けたかどうか」
「……ヤッカーム、何を言いたい?」
「お人好しは今後も付け込まれるという事でございます。この機会にきっちりと決着を付けるのがよろしいでしょう」
「決着とは?」
「お見せします。今一度、ミサゴに参りましょう」

 
 翌日、レイキールはムルリとヤッカームを連れ、山鳴殿を訪れた。アーゴは不在でプトラゲーニョが自室にレイキールたちを招き入れた。
「これはレイキール王子。一昨日に続いて御足労頂くとは――本日のご用件は?」
「リーバルン殿はご不在か?」
「早朝より視察に。場所まではご勘弁願いたい」
「……大臣のヤッカームから話がある」

 
 ヤッカームは苦々しい顔を向けたレイキールを小馬鹿にしたようににやりと笑ってから話し始めた。
「此度の王族略取未遂に関してです――」
「しばし待たれよ。ヤッカーム殿。略取とは人聞きの悪い事を言われますな。あれは人助け、体力が戻るまで動かしてはいけないのは当然ではありませぬか。それに意識も戻らなかったので、我らにはあのお方が『水に棲む者』というのがわからなかった」
「――なるほど、レイキール様が訪れなかったとしても、すんなりとお返し下さったという事ですな」
「レイキール王子もご存じの通り」
 プトラゲーニョはレイキールをちらっと見たが、レイキールは目を合わせようとしなかった。
「ナラシャナ王女をご無事でお返ししたではありませんか。それとも何か、虐待したとでも言われたいか」
「いや、いや、将軍。お待ち下さい。申し上げたいのはそのような事ではありません。ただ、ちゃんとした決着が付いていないと、文句を言う者も世間にはいるのです」

「……決着?」
「左様。そちらの首謀者、いや、言い方がまずいですな、責任者を処断して頂くだけの事です」
「何と?」
「簡単ではありませんか――どなたかの首を差し出してもらえれば済む話。何も将軍に責任を取って頂こうなどとは申しておりません。ミサゴの奴隷の首で結構です。」
「……アーゴ王の即位以来、たとえミサゴの人間であっても一人たりとも処断した事がない。その伝統を破れと言うのか」
「奴隷の一人や二人、どうという事はない。それとも治世の根幹を揺るがすような大事ですか?」
「……少し考えさせてはくれぬか」
「良いお答えを期待しておりますよ。ミサゴまでご一緒致しましょう」

 

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