6.5. Story 1 五元楼

 Story 2 天才の遺作

1 火山候と赤龍

《ファイル》《火山の星》 - 大陸の中心にあるヴラセン火山が活発に活動中。
(注意)大規模な火山噴火の際には唯一の都市ヴラセノが壊滅する可能性大。

 
 リンたちが《巨大な星》の塔に突入して戦っていた頃、オンディヌとシルフィは《火山の星》に到着した。目の前の城は火口から程近い場所に建てられていた。何故、こんな危険な場所に城を建てそこに住まうのか、『火山候』と呼ばれるこの星の支配者の考えが理解できなかった。

 
「やあ、お待たせしたね」
 オンディヌたちが客間で待っていると、当主の火山候が部屋に入ってきた。
「……はて、君たちは」
「私はオンディヌ、そして双子の妹のシルフィです」
 二人は立ち上がって当主に自己紹介をした。
「私がボルケーノ、皆、火山候と呼びます……で、何の御用でしょう?」
 候は顔に深い皺が刻み込まれ、哲学者のような風貌をした中年の男だった。
「はい、私たちには、ある時以前の記憶がないのです。私たちは一体どこで生まれて、何をしていたのか知りたいんです」
「何故、私の所に?」
「この星は連邦にも帝国にも属さない不干渉宣言の星。争いを避けた人や商人たちが行き交う交通の要所と聞いてます。この星であれば様々な情報も入ってくるのではないかと思ったのです」
「なるほど。しかし不干渉宣言などに関わらず、こんないつなくなってしまうかわからない星など連邦も帝国も相手にしていないのが事実ですよ」とボルケーノは自嘲気味に言った。「連邦と帝国の争いが激化するにつれ、この星を経由するコマーシャルシップが増えたのは事実ですがね」
「ご協力願えませんか?」
「協力するのにやぶさかでありませんが、雲をつかむような話ですね。もう少し情報があればよいのですが」
「わかりました。がんばって思い出してみます」
「あせらずにいきましょう。しばらく麓の町に滞在されて聞き込みを行ったら如何ですか。住民たちにも協力するように知らせておきます」

 
「ところで」とシルフィが口を開いた。「候は何故、こんな危険な場所に城を建ててお住まいなのですか?」
「私はこの星の為政者として住民を守らねばならない。常にヴラセンの様子を間近で見守り、もし噴火したならば真っ先に犠牲になるのは私でなければならない、その決意の表れです」
「なかなかできる事ではありませんね」
「私は火と土の属性を持つ精霊で、多少の火山弾や溶岩流は平気なのです」
「……火と土ですか。精霊って、水の精霊とか風の精霊とか、そういう単一の属性のものだと思ってましたわ」

「シルフィさん、それは大昔の話です。確かに精霊の祖、アウロスに始まる太古の精霊たちは単一属性でした。しかしその後、精霊が世界との交わりを重ねるにつれ、多くの場合は複合属性を持つようになり、現在では単一属性の精霊などいない、と断言しても間違いではありません」
「そうなんですか?」とオンディヌが言った。「あたしたち、実は自分たちが精霊なんじゃないかって思ったんです。あたしが水の技、シルフィが風の技を使うものですから。でも今のお話ですと単一属性ですものね?」
「……そうですね。私の浅い知識からすれば、あなた方は精霊ではないという事になる。もし精霊に興味がおありなら、《灼熱の星》の『豪雨候』、ファイアストームや、《精霊のコロニー》の『開拓候』、フロストヒーブに会うといいのでしょうが……今の状況で帝国支配下の星々に行くのは危険を伴いますね」
「そうします。貴重な情報をありがとうございます」とオンディヌが礼を言った。

 
「火山候、もう一つ質問があるのですが」とシルフィが言った。「複合属性の方が安定するとのお話でしたが、もし火と水の属性の組合せになったらどうなるのですか?」
「火と水、風と土、その複合属性は世には現れません。それは『反属性』と呼ばれ『現れし時、世は大いに乱れる』と言われるほど良くない事と言われています」
「へえ、精霊の世界って知らない事だらけです」
 シルフィが感心して言った。

「ついでに言うなら、そう、例えば《武の星》には『五元楼』という自然界の五属性を祀った楼閣があり、住民たちは風、火、土、水、金のいずれかの属性の楼閣で修行をするのだそうです。ところが金の属性を持つ者は滅多に現れない。精霊界でもそれは同じ、『金の属性は王たる者の証』と呼ばれています」
「アウロスと言われるお方?」
「その通りです。知る限りでは唯一、アウロスだけが金の属性の精霊です」

「水牙に聞けば、《武の星》で金の属性を持つ者がいたのかどうかわかるかもね?」とシルフィがオンディヌに言った。
「まあね、でも私たちには関係いわよ」
「そんな醒めた言い方しないでよ。そうだ、《武の星》に寄ってみない。あそこの長老たちなら何か知ってるかもよ」
「私はコロニーの方に興味があるわ」
「まあまあ」と言ってボルケーノが間に入った。「私は《武の星》の公孫転地殿にしかお会いした事はありませんが、最も古い長老となれば、それこそ『銀河の叡智』以前から生きていると言われています。あなた方にきっと何かを示唆してくれるはずです。同様に開拓候フロストヒーブも賢さでは負けておりません。あなた方の役に立つ情報を提供してくれるはず。どちらを目指すもあなた方次第、ここに滞在する間にゆっくりと考えられるがよいでしょう」

 
 数日後、オンディヌたちが麓の町、ヴラセノで住民たちに聞き込みをしてボルケーノの館に戻ると思わぬ珍客に出会った。
「あら、王先生」とオンディヌが言った。「《巨大な星》は?」
「おお、オンディヌにシルフィか」と王先生はしわくちゃの顔をさらにくしゃくしゃにして笑った。「わしらの出番は終わって、さっき着いたんじゃ。どうじゃ、そっちの様子は。何かわかったか?」
「ちょっとずつですけど」とシルフィが答えた。「これから《武の星》に行こうかと思って」
「ほお、五元に興味でもあるんか。しかし自分たちが精霊じゃないかと考えておるんだったら《精霊のコロニー》か《茜の星》の方が良くはないか」
「《茜の星》……ですか?」
「うむ、確か、精霊の四大候の一人が暮らしておったはずだぞ」

「いや、王先生」とボルケーノが話に割って入った。「あそこは……あまりお薦めしませんし、何よりも城主はもうあの地には住んでいないはずです」
「ほほお、そうだった。お主が薦めないのであれば行かない方が良いかもしれんな」
「何だか色々ありそうですね――ところでそちらの男の子は?」とオンディヌが話題を変えた。
「ああ、白龍じゃ。青龍の弟分じゃな」
 白龍はぺこりと頭を下げた。
「この星に来た理由も赤龍に会うためなんじゃ」
「……赤龍?」
「青龍の兄貴分じゃな」
「先生は以前にもここに来られたのです」とボルケーノが言った。「まだ龍が蘇っておりませんでしたが、私が見た時は噴煙の向こうに巨大なシルエットが浮かび、目がらんらんと光っていました。何も会話を交わしませんでしたが、お互いに考える事がわかりました。彼もまたこの星の人々を噴火から守っているのです」
「その場所に行ってみるつもりじゃが、お主らも一緒に来るかな?」

 
 ボルケーノの案内で城の外から火口近くに降りた。白い噴煙がもうもうと立ち込め、視界が奪われた。
「この付近でした」
 真っ白な煙の中からボルケーノの声が聞こえ、「わかった」と王先生は答えてから、火口に向かって叫んだ。
「赤龍よ。いるなら出てこんか。わしと話をしよう」

 しばらくは何も起こらなかったが、唐突に風が起こり、目の前の厚い噴煙が吹き散らされた。薄くなった煙の向こうには龍のシルエットと光る目があった。
「あなたは……」
「わしがわかるか。ようやく記憶が戻ったのじゃな」
「完全に、ではありませんが……黄龍様は何故、こちらに?」
「今は黄龍ではなく王先生だな。わしは昔の仲間を集めておる。ここに青龍、白龍がおる。グリュンカにも会ったがすぐに封印した。そしてお前だ」
「再結集ですか。しかしディヴァイン様は?」
「まだ見つからぬ。わしら龍族は《古の世界》崩壊時にディヴァインの力で転生をしたが、ほとんどの者が記憶を失ったではないか」
「私も気がついた時には、この星におりました」
「ディヴァインは力を使い果たして、まだどこかで眠りについておるのだろう――どうじゃ、赤龍。わしらと一緒にディヴァインを探しに行かんか?」
「……お言葉はありがたいですが、今の私はそこにいるボルケーノと同じ志を持つ者。この星の民を守らねばなりません」
「赤龍殿」とボルケーノが声をかけた。「この星は私に任せて、龍族のために生きて下さい」
「いや、一度決めた事です。二度と《古の世界》のような事があってはいけない」
「あいわかった。ではお前はここで星を守るがよい。その代わりチャネルは開いておけよ。何かあればいつでも連絡する」
「黄龍様、ありがとうございます。何卒、お気をつけて旅をお続け下さい」

 

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