ジウランの日記 (10)

 Chapter 5 《エテルの都》

20XX.7.15 ナインライブズの教え

 ようやく長い長いチャプター4を読み終えた。
 久々に部屋の掃除、洗濯をして、郵便物に目を通した。PCを立ち上げてメールをチェックすると、二見浦先輩からメールが届いていた。

 ジウラン

 この間はギャラリーに来てくれてありがとうな。
 ナカナちゃんとはうまくいってるかな?

 実は相談があってメールをしたんだけど、内容が内容なだけにこのメールを読んだら電話してくれないか?
 よろしく頼むよ。

 二見浦

 
 すぐに二見浦先輩の携帯に電話をかけ、2コール目で先輩は出た。
「ジウラン。元気にしてたか。実はな、お前に相談があって……電話じゃ何だからお茶でも飲みながら話さないか。今から出れるか。おお、それじゃあ――」
 先輩のバイト先のスタジオの近くの喫茶店で待ち合わせをした。

 東京タワーの裏手にある喫茶店に着くと、しばらくして先輩がやってきた。
「ああ、ごめんごめん。ジウラン、元気そうだな」
 先輩も元気そうで、でもスタジオって芝公園でしたよね、遠くないですか――
「いや、あんまり他人には聞かれたくない話なんだ……ジウラン、お前飯食ったか。ここのドライカレー旨いから一緒に頼もうぜ。金なら気にすんな、おごるから」
 先輩のおごりっていうと嫌な予感がします――

 先輩はふふんと笑うとドライカレーを二つ注文して、コップの水を飲み干した。
「……お前、バルジ教って知ってるか?」
 突然の質問に面食らっていると、先輩はもう一度ふふんと笑って話し出した。
「バルジ教ってのは最近勢力を伸ばしてる新興宗教らしい。この近くの“元麻布聖堂”の話、聞いた事あるだろう?」
 そう言えばあるオーナー会社のワンマン社長が失脚して、売りに出された元麻布の広大な土地を買ったとか、そんな話で出てきた名前だったような気がする。
「バルジ教は一種の終末思想っていうか、世界の終りに現れる蛇だか龍だかを信仰するんだそうだ。その蛇だか龍だかはナインライブズって呼ばれてて、それを信じている者だけが救済されるらしい」
 先輩の口からNine Livesという名前が出たので、ぼくはコップの水をあやうくこぼしそうになった。

「でな、ここからが本題だ。お前、サークルの堅田覚えてるか。あいつがどうやらバルジ教にはまったらしくてな。部室にも学校にも顔を出さなくなったんだ」
 それとぼくにどんな関係があるのだろう、きょとんとしていると先輩はさらに続けた。
「あいつは地元が一緒で弟みたいに可愛がってたんだよ。だから何としても救い出したい。でもお前くらいしか頼む奴がいないんだよ。学生でもない、働いてもいないお前なら、堅田の事を調べて、あわよくば堅田を救出してくれるんじゃないかって思ってさ。お前って案外しっかり者だしな」
 ぼくもそんなに暇じゃあ、と言おうとして思い留まった。やっぱりNine Livesの名前は気になる。明日元麻布に行ってみますと答えた。

 

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