ジウランの日記 (7)

 Chapter 4 ヒガント
(巨大な星)

20XX.7.4 市邨奈津子

 エピソード6チャプター3を読み終えた。いよいよ次は帝国領土へ侵攻か、チャプター4を事前にチェックした。
 

Ep.6 凶兆 Sinister
Ch.4 ヒガント(巨大な星)
St.1 遠征前夜
St.2 《オアシスの星》
St.3 《鉄の星》と《銀の星》
St.4 (1) 潜入
St.4 (2) 殲滅
St.4 (3) 水牙の苦悩
St.4 (4) ファクトリー
St.4 (5) 覚醒
St.4 (6) 錬金塔
St.5 邪神征伐
St.6 二つ目のシニスター

 
 今度のチャプターはボリュームがありそうだ。じっくりと読もう。

 コンセプト用語も更新したし、星の名前も作成した。

 そして蒲田さんの言っていた「主役を探す」調査も進めないと。ここまでの人物リストに基づいて候補者を絞り込んだ。

 市邨 奈津子
 大地 靖男

 
 この二人は主役の親友だし、有益な情報をくれるに違いなかった。早速この二人を探そう、そんな事を考えていたら、玄関のチャイムが鳴った。
 ドアを開けると美夜が立っていた。
「一週間近く連絡がないからどうしたのかと思って。上がってもいい?」
 そうだった。蒲田さんに会えたお礼の電話を美夜と西浦さんにしてから、ずっと資料読みに集中していて外と連絡を絶っていた。
「別に電話でも良かったんだけど、ちょうど近くまで来る用事があったから」とコーヒーを準備する間に美夜が言った。
 コーヒーカップを二つテーブルに置き、蒲田に会った時の話をした。主役を探さなきゃいけないんだという部分を強調した。
「具体的にはどうするつもり?」
 ラップトップPCのスクリーンを美夜に向けて先ほど絞り込んだ二人の名前を見せた。
「市邨奈津子……その名前が出たのね」
 何か知ってるの?
「市邨奈津子にも大地靖男にも会えないわ――もう亡くなってる」
 美夜はひどく悲しそうな顔を見せて、続けた。
「この先を読めば二人とも交通事故で亡くなったのがわかるはずよ」

 ぼくはずっと心に引っかかっていたわだかまりを吐き出した。
 美夜はぼくの知らない何かを知っていて、その何かはこの『クロニクル』の中に隠されている。それは何?
「ごめん。あたしも上手く伝えられない。おじい様がこの先、どんな内容の記述をしたかもわからないし、可能性でしかないの。あたしが望む全てが記載されているならば、当面の勝負に勝ち、真の敵に勝つための方法もわかるし、大切な人たちの運命もはっきりする。そして何よりも……」
 何よりも――
「何よりも『事実の世界』でのあなたとあたしの関係がわかる。あなたにとってはさほど重要じゃないかもしれないけど……」
 「事実の世界」を取り戻したなら、こうして会って話す事もないし、町で会ってもすれ違うだけになってしまうって事?
「かも」

 ぼくがコーヒーカップを手に持ったまま途方に暮れていると、美夜は気分を変えるように言った。
「ねえ、こういうのはどう?シゲさん、重森二郎に会いに行くのよ。あたしも会った事ないけど、西浦さんの話だととっても特徴ある人らしいから二人で探せば見つかるんじゃない?」
 いいけど、二人で探すって――
「そうね、あなたが東中野を探して、あたしが新宿を探す。何かわかったらお互いに連絡を入れる。効率的でしょ?」
 美夜は元気な声を出したがまだ悲しそうな顔をしていた。何を言っていいかわからないでいると、視線に気づいてにこりと笑った。
「大丈夫よ、あたしなら。あなたがやろうとしている事を見届けなきゃならないんだから悲しんでる暇はないの」
 今のぼくには美夜もいるし蒲田さんもいる、ぼくは一人じゃないんだ、そう思うと涙がこぼれそうになった。あわてて美夜の方に向き直ると美夜がぼくをじっと見つめていた。

 自然に手が伸びて美夜の頬に触れた。美夜は一瞬だけぴくりと動いたが、黙ってぼくの手に自分の手を重ねた。
「あたしはある人の悲しみを知っているの。その人の笑顔を取り戻すには「事実の世界」が必要だから、あなたにはこのまま続けて欲しい……」
 ――わかってる。でも『このままでいい、もう何もしなくてもいい』って考える機会が増えてる、君に会えなくなるんだったら、『事実の世界』なんて必要ない
「……そう」

 もう一方の手も美夜の頬に添えた。
 『事実の世界』を取り戻して二人が見知らぬ赤の他人に戻ったとしても、二人が会っていた事を忘れないような何かがあればいいんだけど
「それはどういう事?」
 ――今夜はここに泊まっていって欲しい
「困った人ね。あんなに可愛いガールフレンドがいるのに」
 ナカナは友達だよ
「……仕方ないわね。あなたのモチベーションがそれで保てるのなら。でも一晩だけよ。明日になればまたビジネスパートナー、ううん、ビジネスはおかしいわね、協力者の関係に戻るから」

 ……美夜はそう言ったけど、ぼくは……そんな風に割り切れるだろうか?

 

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