6.9. Story 1 叡智の儀式

 Story 2 後日談

1 現れぬ叡智

 ホーリィプレイスの町の広場で多くの人が英雄たちを出迎えた。
「よくぞご無事で」
 ドウェインがにこにこ笑いながらやってきた。
「ありがとよ。マザーは?」
「ご自宅でお待ちです」
「じゃあそっちに行くか。パレードや祝賀式典は全てが終わってからだ」

 
 マザーの家では、マザーがリンの婚約者たちに囲まれて待っていた。
「お帰り。ご苦労だったね」
「まだ終わっちゃいねえけどな」
「ジノーラにも会ったかい?」
「ああ、会った。何、考えてるのかわかんねえおっさんだった。『次の楽しみを見つけた』とか言っちまってよぉ」
「『次の楽しみ』、そう言ったのかい?」
「どうかしたのか?」
「――いや、何でもないよ。とりあえず今からやるべき事を話そうじゃないか」

 
「これからあんたたちは《七聖の座》に行って、デルギウスの時と同じ儀式を行うんだ」
「儀式?」
「資料が何も残ってないけどね。あたしが聞いた話を総合すれば、あそこの各惑星に一人ずつが立って、剣や銃の得物をかざすんだそうだよ。そうすると叡智の光が溢れ出す」
「それだけかい。あっけねえもんだなあ」
「……やってみようじゃないか。あたしたちも行くから」
「えっ、マザーも行くのか」
「がたがた言うんじゃないよ。さあ、出発するよ」

 
 シップは《七聖の座》に到着した。リンが再び光と熱をもたらした恒星が周囲の惑星を照らしていた。
「いいかい。外の星からノカーノにはリン、兆明には水牙、リリアにはジェニー、デルギウスにはリチャード、ファンボデレンにはゼクト、メドゥキにはコメッティーノ、クシャーナにはランドスライド、並ぶんだよ。でもその前にデルギウスであたしが呪文を唱えるから」
「マザー、あんた、七聖の時もこうやって仕切ったんだろ?」とコメッティーノが尋ねた。
「そうだよ」
「……あんた、何者だい?」
「ただの長生きのばばあだよ。さあ、リチャード以外は行った、行った」

 
 主星デルギウスにはリチャード、マザーとリンの婚約者たちだけが残った。マザーは車椅子から立ち上がり、天に向かって言葉を唱えた。

「――エニクよ。この子たちは与えられた試練を乗り越えた。あたしの声が聞こえるなら今一度、『銀河の叡智』を授けてはくれないかい」
 しばらくそのままの姿勢で立っていたマザーは険しい顔になり、車椅子に戻った。
「やってみるかね。さあ、みんな、得物を空にかざすんだよ」
 マザーの合図に従い、それぞれの惑星に散った七人が得物を空にかざしたが、何も起こる気配はなかった。
「――だめかい。向こうから返事もなかったしね」

「マザー、何が原因だ?」と言いながらリチャードが近づいた。
「満足しちゃいないみたいだよ――やっぱり、あれかねえ」
「あれとは?」
「シニスターなんて単なる前座。叡智なんてのも単なる甘い飴。あいつらが本当に見たいのはナインライブズさ」
「あいつら?ナインライブズ?」
「この『九回目の世界』存在の意味は『どうすればナインライブズが出現するか』と言い換えてもいいくらいさ。そして今、そのナインライブズが生まれるかもしれないとなれば、返事なんてしてくれないさ」
「……マザー、あんた、何を言っているんだ?」
「皆をここに集めておくれ――娘たち、やはりあんたたちの力が必要になりそうだよ」
 そう言ってマザーは背後のリンの婚約者たちに微笑みかけた。

 
 再びデルギウスに七人が戻った。
「マザー、何も起きなかったじゃねえか」
 コメッティーノがからかうように言った。
「時間がかかるのさ。まあ、待ってておくれよ」
「『待つ』って何をだよ――」
「――ああ、来たよ。まだまだ来るからね」

 
 マザーの視線の先に一隻のシップがあり、シップから降りたのは『空を翔る者』、パパーヌだった。
「急いだのだが、遅かったか?」
「いや、一番乗りさ」

 話の終わらないうちにまた別のシップが到着して、今度は『水に棲む者』、珊瑚姫がムルリに連れられて姿を現した。
「わらわに用とな?」
「まあね。ちょっと待ってておくれ」

 さらに別のシップが到着して降りたのは『地に潜る者』、ネアナリス王だった。ネアナリスは王先生と一緒だった。
「途中で黄龍殿にお会いしたのでな。一緒に参った」

 そして見覚えのあるホスピタルシップが到着し、オンディヌとシルフィが姿を現した。
「皆、元気にしてた?」
「おい、マザー。何が始まるんだよ。こんなに人を集めて」
 コメッティーノは面食らっていた。
「まだ来るはずだけど――まあ、ふらっと来るだろうね」
「何をおっ始めるつもりなんだよ」
「さあてね、銀河始まって以来のお祭りでもと思いなよ。ここにいる全員が参加者だよ」

 

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