目次
1 流星の斧
リチャードは愚直に戦い続けた。胸元がミラナル・リアルの急所だとわかったが、攻撃が単発のためか、効果的なダメージを与える事ができなかった。
長時間に及ぶ戦いでリチャードの動きは鈍っていた。ミラナル・リアルの腕が体を掴み、思い切り地上に叩きつけられ、踏みつけられた。
「ぐっ……」
リチャードは反撃する力があまり残っていないのを感じ、天を仰いだ。
「これ以上は見ていられんな。銀河の英雄の最期か」
上空のシップのネアナリスが呟いた。
「へい。後はミラナル・リアルに任せて先にシップで出発しましょう」とミーダも言った。「リチャードさん、色々とお世話になりやした。あんたの事は忘れねえっす」
リチャードは仰向けに倒れたままミラナル・リアルの攻撃を待った。もう体が言う事を聞かなかった。
視界の端に何かが見えた。傍に人が立っているようだった。
ぼやけつつある意識の中で男の姿を捉えようとした。男は黒いコートのようなものを着ていて、頭が白かった。
包帯?――
声を出そうとしたがうまく出なかった。
男が言った。
「お前を助ける訳ではない。勘違いするなよ――奴の弱点はどこだ?」
リチャードは横たわったままで自分の胸元を指差した。
男は長い柄に美しい彫り物の刻まれた刀身を持つ斧を携えていた。
「おれが相手だ」
男は軽やかに空中に飛び上がり、斧を頭の上で振り回した。
振り回した斧から白く燃えたぎった岩弾が次々に飛び出して、正確にミラナル・リアルの胸元に命中した。
百発近い岩弾が胸元に当たると動きが鈍くなり、やがてミラナル・リアルは跪き、動きを停止した。
男は再びリチャードの傍に立った。
「……」
男はリチャードの無事を確認すると黙って去っていった。
リチャードは真っ暗な天空を仰いだ。
話したい事は山ほどあったが、追いかける力は残っていなかった。
いつか又会えるだろうか……エスティリ……
リチャードは静かに目を閉じた。