ジウランの日記 (1)

20XX.5.28 追体験の旅

 昨夜はぐっすり眠れた。悪い夢でも見るかと思ったけど、疲れすぎていたせいか、すっきりと目が覚めた。
最寄のコンビニに行って朝昼晩の三食分の食料とおやつを買い込んだ。レジ脇のスタンドの新聞を遠目から見たが大した事件は起こってなさそうだ。そう言えばあの家にはPCがなかったから、キリのいい所で下宿に戻ってPCやら通信手段やらも用意しなきゃ。

 コンビニの袋をぶら下げながらビーチハウスに戻る途中で海岸に出た。朝日にきらきら輝く海、じいちゃんの言葉通りなら、じいちゃんはもうこの海が続く場所にはいないって話になる。あのいんちきポルトガル人め。

 小さな女の子が父親らしき男の人と毛足の長い犬を連れて朝の散歩をしていた。こののどかな光景が事実に基づかない世界だなんて信じられない。もし「事実の世界」になったらどんな景色に変わるのだろうか。そもそも「事実の世界」って何だ?

 ビーチハウスに戻り、居間で朝食を取り、買ってきたスポーツ新聞に目を通した。二日ぶりに携帯をチェックすると着信が15件、メールが42通入っていたけど、ほとんどはナカナや写真サークルの仲間からの飲みの誘いだった。

 あまり気が進まなかったが書斎に向かった。相変わらず八つの大きな山がぼくを待っていた。
昨日はてっきり紙の束を紐で綴じた書類だと思っていたが、間近で見ると違っていた。

 一つの山の書類を手に取った。光沢のない、つるっとしたプラスティックのような素材を接着したものだった。A4サイズで数百枚はありそうだが、重さはほとんど感じず、かさばる事もなかった。
ページをぱらぱらとめくったが、一面に訳のわからない模様のようなものが書き込まれているだけで全く読む事などできなかった。

 あきらめて手に取った資料を元の山に戻し、大きく伸びをした時に、別の大きな山の上に昨日はなかった一枚の紙が乗っているのを発見した。
同じプラスティックのような素材でできた紙を手に取ると、今度は一部を読む事ができた。どうやら目次のようでこう記してあった。

Ep.1 XXXXXXXXXXX Tribes
Ep.2 XXXXXXXXXXX Ruler
Ep.3 XXXXXXXXXXX Sages
Ep.4 XXXXXXXXXXX Interlude
Ep.5 XXXXXXXXXXX Collapse
Ep.6 凶兆      Sinister
Ep.7 XXXXXXXXXXX Life
Ep.8 XXXXXXXXXXX Gems

 高校の歴史の授業で習った戦時中の文書検閲みたいにXにしたのは読めなかった部分で、読めたのは各エピソードのサブタイトル、それにエピソード6のタイトルだけだった。
目次が乗っていた山を見ると、表紙に『クロニクル:エピソード6』と記してあるのを発見した。この山だけは他の山のように訳のわからない記号ではなく、読めそうだった。
じいちゃんの言葉通り、このエピソード6の山からしか読めない仕掛けなのだろうか。

 ここまで凝ったいたずらを仕掛けるじいちゃんにあきれた。でもこうなったらお望み通り読んでやろうじゃないか。
じいちゃんのとんだ茶番に付き合わされて迷惑なはずなのに、この資料の山脈を制覇してやろうとしている自分に気が付き、苦笑した。

(追記)

 エピソード6は東京から始まるようだ。銀河の歴史書のはずなのに妙な始まりだ。これを真っ先に読ませようというのがじいちゃんの意図なのか。

 

登場人物:ジウランの日記

 

 
Name

Family Name
解説
Description
ジウランピアナ大学生。行方不明になった祖父のメッセージに従い、『クロニクル』という文書を読み進む
デズモンドピアナジウランの祖父
一年前から消息不明
能太郎ピアナジウランの父
ジウランが幼い頃に交通事故で死亡
定身中原文京区M町にある佐倉家の屋敷の執事
美夜神代ジウランをサポートする女性
都立H図書館に勤務
菜花名
(ナカナ)
立川ジウランのガールフレンド
西浦元警視庁勤務
美夜と関係があるらしい
大吾蒲田元警視庁勤務
現在は著名な犯罪評論家
シゲ
(二郎)
重森伊豆の老人ホームにひっそりと暮らす

 

 Episode 6 Sinister(凶兆)
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