ぼくは故郷に向かう船に乗り、窓の外を見た。
外に広がるのは漆黒の闇だ。
横に立つ彼に話しかける。
「何だい?」
彼はにこりと笑う。
「あのさ。ぼくのした事は正しかったのかな?」
しばしの沈黙の後、彼は口を開いた。
「あの場にいて気が付かなかったかい。これは代理戦争だったんだ。君が行動を起こさないという決断を下せば、それによって平和が守られた地域もあったかもしれない、でもそれは君に期待した『新しい創造主』の敗北、つまりは、かつてのArhatsの勝利を意味する。彼らが勝った場合にこの銀河をどう扱ったかまではわからないけど、碌な結果にはならないはずだ。君の決断がこの銀河を救ったんだよ」
「全部、新旧の創造主の間のゲームだった?」
「おそらく」と言って、彼は目の前の暗闇に視線を戻した。「彼らの間で事前の取り決めがあったんだね。直接やり合えばこんな箱庭なんて一たまりもないから代理のプレイヤーを立てて勝負する、みたいな」
「そのプレイヤーがぼくだったの?」
彼は小さく頷いてから話題を変えた。
「それにしても久しぶりだなあ。地球への里帰りは」
ぼくはある事に気付いた。彼には『事実の世界』の記憶が完全に戻っている。他の人たちも同じだろうか。
彼は淡々と話を続ける。
「弟たちが戻ってきているといいな。他の人たちにも会うのが楽しみだよ」
「地球はどう変わったんだろう?」
「こちらに決定的な切り札がない事実は変わってないし、それによって胸を撫で下ろしている奴がいる。君のお祖父さんたちが一足先に帰った理由はそいつとの決戦に備えるためだよ」
戦いなんてどうでもよかったぼくは一番の心配事を口にした。
「――大事に思う人が無関係な存在になってるかもしれないんだよね」
ぼくの呟きを聞くと彼は静かに目を伏せた。
「考えても仕方ないよ。全ては別の世界で起こったんだ」
「あのArhatの女性に頼めばどうにかしてくれるかな?」
「どうせ頼むなら昨日まで生きていた世界をどこか別の場所に再現してもらった方が簡単じゃないかな」
「さすがは『銀河覇王』だね。思いもつかなかったよ」
「そんな事よりも地球で安心しきっているあいつをどうするかだよ。君にとって最後の闘いさ」
「うん、そうだね」