雑食紀行:愛宕醍醐

【2022年7月】

愛宕にある『醍醐』にお邪魔した。
曹洞宗の本山永平寺から始まった動物性の食材を一切使用しない完全な精進料理で、元々は隣の敷地の青松寺の中にあったのをビルに移築したのだそうだ。
妻は同じ港区の曹洞宗の寺の娘なので子供の頃から青松寺によく遊びに行っており、もちろん『醍醐』の事も知っていたと言う。
何か腹が立つ。

食事前は「精進では淡白過ぎてすぐに空腹になるのではないか」という不安があったが、味も美味しく、十分に満腹感を味わった。

 


アーティチョークの味噌田楽。美味。

 

途中でテーブルに置いてあったお品書きの揚げ物の所の料理名が目に留まった。

老眼で上手く文字が読めず、「新牛蒡」という文字が「新」、「井?」、「蕭?」と読めた。
「新井蕭白?」、これは江戸時代の有名な画家の名前だ。言われてみれば床の間にかかっている絵は蕭白のものに違いない。

ここで妻に賢い所を見せようと思い、一説ぶった。
「どうやらここの床の間の絵は新井蕭白によるもので、それになぞらえて『新井蕭白の扇揚げ』という料理が出てくるみたいだぞ。しゃれてるよな」

 

揚げ物が運ばれてきてお姉さんが一言、「新牛蒡の白扇揚げでございます」。
あれっ、念のため確認してみよう。
「どうして新井蕭白の名前が料理についているんですか?」
質問した瞬間のお姉さんの顔、「こいつ、何を言ってるんだ」という表情の後、「はあ」と曖昧に笑って座敷を出ていった。

ここで妻が「新牛蒡ってお品書きに書いてあるよ」
「いや、でも蕭白の絵のはずなんだけど……」
ん、新井蕭白って誰だ?
曾我蕭白と間違えてないか。
慌てて床の間の絵の銘を確認した。「安信」、調べた所、狩野安信だった。

妻が腹を抱えて笑いながら言った。
「何から何まで間違ってるってすごいよね」


新井蕭白ではなく新牛蒡の白扇揚げ